第一章 1+1=∞

3/36
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
 入学して三ヶ月。学校にはだいぶ慣れてきた。私は一人も友達がいないけど、マンガのネタ探しも兼ねて人をよく観察する。スクールカーストの頂点にいるのがどんな人か最近分かってきた。勉強ができる人でも、部活を頑張って賞状をもらうような人でもなかった。この高校のスクールカーストの頂点に君臨してるのはデビルと呼ばれる不良さん。顔は分かるけど、本名は知らない。ボディビルダーみたいにすごい筋肉がついていて背も私より三十センチ以上高い。髪は金髪でピアスを何個もしている。校則違反だけど誰も注意しない。しょっちゅうケンカしてるし、先生相手に殴ったこともあるそうだ。誰も逆らわないし、いつも手下みたいな人を連れ歩いている。  学校が同じというだけで、私とは生きる世界が違う。デビルくんと関わり合いたいとは思わないけど、きっと向こうも私みたいな石の裏のダンゴムシなんて存在してることに気づいてもいないだろう。  なんて書いて、これから私とデビルくんが出会うんだなと思われたら困る。でも大丈夫。私は一年生で向こうは三年生。接点なんてあるわけない……。  と思ったら、学校からの帰り道、私は一人。暗い道の先にはデビルくん。デビルくんと出会いたくない! 横道にそれようと思ったけど、こんなときに限って一本道で横道がない。  デビルくんがふっと後ろを振り向いて、私と目があった。少女マンガだと、デビルくんの方から話しかけてくるパターンだ。  「なんだかさみしそうに見えたけど大丈夫?」  こんな感じ。どんなにさみしくてもいいから、デビルくんにだけは絶対に声をかけられたくない!  デビルくんが声をかけてこなくてホッとしたけど、しばらくしてニャーニャー声が聞こえてきた。これもまずい。どんなに極悪非道な不良でも子猫をかわいがるだけでいい人になれる。これも少女マンガによく見られる設定だ。  白い子猫たちがデビルくんに近づいていく。笑顔のデビルくん。デビルくんが子猫たちをかわいがってるあいだに通り過ぎようと思ったけど、デビルくんは笑顔のまま一匹の子猫を、思いきり蹴り上げた。蹴られた子猫が宙を舞う。その猫もほかの猫たちも必死にどこかへ逃げていった。デビルくんはだてにデビルと呼ばれてるのではなかった。彼は本物の悪魔だった。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!