第一章 1+1=∞

7/36

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
 デビルくんのせいで嫌な気持ちになったけど、人生嫌なことばかりでもない。まだデビューもできてない私にもうファンがいたりする。月刊ピュアの月間新人賞に投稿して優秀賞以上になると投稿作がカットされずに掲載される。たいてい〈あと一歩〉という選外ばかりだけど、一度だけ優秀賞に選ばれた天野(あまの)津海(つかい)さんという子が編集部あてで私にファンレターをくれた。編集部の人が私の家に転送してくれた。ペンネームはたぶん〈天使〉をもじったものだろう。少女趣味が鼻につきすぎてドン引きだけど、少女マンガの作者のペンネームだからそれくらいでちょうどいいのかもしれない。  天野さんの絵は正直うまい。表情が豊かでどの人物もまるで生きてるみたいだ。特に彼女の描く目が好きだ。キラキラして私もこんな輝いてる人になりたいなって思える。  でも彼女は絶対に少女マンガ家としてデビューできない。だって作画のタッチがいかにも少女マンガというだけで、彼女の描くマンガのヒロインは少女マンガの主人公としてステレオタイプすぎる。少し内向的で人間関係に悩んで涙もろい。要は陳腐なのだ。  そんな天野さんがぜひ会ってほしいと私に言ってきた。私のファン第一号の子だし、私は会ってあげることにした。遠慮なくアドバイスもしてほしいと書いてあったから、思ったことは全部言ってあげるつもりだ。それで彼女が怒ったりすねてしまったりするようなら見込みはない。それだけの相手だったということだ。思ったことを全部伝えた上で、彼女が私の眼鏡にかなうクリエーターだったならば、私はある思惑を彼女に伝えるつもりだ。彼女はきっと驚くだろう。でもそれは彼女にとってもきっと悪い話ではない。絶対に説得してみせる。私は強い決意を胸に秘めて当日までの日々を過ごした。  私の家の最寄り駅まで来てくれるというから甘えることにした。待ち合わせは土曜日の午前十時。梅雨どきなのに快晴の朝だった。  天野さんがどこに住んでるのか知らないけど、わざわざ私に会いに来てくれるんだから、お昼くらいはおごってあげるつもり。駅前にパンケーキのおいしいお店があるから予約しておいた。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加