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「魚ですって!?」
タカヒサの素っ頓狂な声に、アオタは苦笑いした。先程までの嵐は落ち着きつつあったが、それでもなお、この小さな船は大洋のうねりに呑み込まれそうになりながら、大きな上下運動を繰り返していた。
「いや、正確には魚ではなく、哺乳類の一種なんだが…」
操縦席に座りながら、その回転椅子をクルリと後ろに向けてオオサワが答えた。タカヒサは食ってかかった。
「オオサワさん! だいたい、あんな巨大な生物が居る訳無いじゃないですか! いくら俺が地球の事を知らないと言っても、そんな嘘っぱち、信じるわけ無いでしょ! バカにするのもいい加減にして下さい!」
先程の甲板作業で濡れてしまった服を脱ぎ、袖口の辺りを絞っているタカヒサに向かってオオサワがニヤリと笑った。
「賭けるか?」
オオサワの挑発にまんまと乗ったタカヒサが言う。
「いいですよ、賭けましょう。もし俺が間違ってたら、これから先のトイレ掃除は俺がやりますよ。もし嘘だったら、どうしてくれます?」
「そうだなぁ…」
その時、オオサワに代わって船の操縦を任されていたPUZが割って入って来た。さすがに嵐の時は、人間による操縦が必要であったが、今はPUZによるオートクルーズで十分である。
「船長。エンジン回りにトラブルが発生した様です。オイルクーラー付近の配管チェックをお願いします。現時点では致命的ではありませんが、今のうち修理しておく事をお勧めします」
オオサワは「はぃはい」と言いながら機械室に向かった。その間際、振り返って言った。
「PUZ! 俺んとこに養子に来ないか? お前はなかなかスジが良いぞ! わっはっは!」
オオサワとPUZは、いつの間にそんなに打ち解けたんだ? タカヒサが言葉にならない嫉妬心を燃やしていると、事の成り行きを黙って聞いていたアオタがボソリと言った。
「PUZに助けられたな」
「どういう事ですか、アオタさん? 俺がPUZに助けられたって」
アオタがその質問に答えるハズは無かった。PUZも知らん顔だ。タカヒサは「何だい何だい、皆して!」と心の中でイジケながら、先ほど見たクジラとやらの事を思い出していた。あの巨大な物体は何だったのか…。タカヒサには、合理的な結論を導き出す事は出来なかった。
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