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食堂では乗組員達が談笑ながら食事をしていた。ローズもその輪の中に居たが、タカヒサが入って来たのに気付くと、ニコリと笑い、「ここに座りなさい」と言って出迎えた。甲斐甲斐しく人の世話をするそんな彼女の姿は、どの乗組員も見たことが無い。彼らはお互いに顔を見合わせて、何やら目配せしていた。ローズが自分を息子のように思ってくれるのは嬉しかったが、退屈な航海生活に飽き飽きしている乗組員達の、恰好の話ネタにされている事は明かであった。
一般機械担当の技術者であるアンドリューが聞いた。
「シズクイシさん、何しに地球に行くんですか? 観光するには最高の星だって事は知っていますが・・・」
テーブルを囲んで笑いが起きた。タカヒサが地球で成すべき仕事に関しても、乗組員達は興味津々であった。その探りを入れる役割をアンドリューがかって出たのであろう。
「タカヒサと呼んで下さい」
タカヒサは、今回の件は内密にしてくれと言っていたエバニッシュの顔を思い出していた。そしてアンドリューの質問に答えた。予め用意していた作り話である。
「地球の南極圏にはコレといった鉱物資源は無い、というのが定説になっています。しかし、2247年に我が社が行った広域調査で、一ヶ所だけ調べる事が出来なかった地域があるのです。NZ地区から南へ1350㎞程下った南極海の海底がソレに当たるのですが、その地域の商業的価値を見極める為の調査を行います」
こんなにもいい加減な話が自分の口からスラスラと出てきて、タカヒサは我ながら驚いていた。大方の乗組員はその話を信じているようであったが、何となくうさん臭さを嗅ぎ取っていたアンドリューだけは喰いついてきた。
「タカヒサ一人で、そんな深海調査が出来るとは思えないなぁ」
タカヒサは次に用意していた答えを持ち出した。
「地中の資源調査は意外と簡単に出来るんですよ、アンドリュー。超音波を照射して、その跳ね返りをモニターするんですが、地中に埋もれた資源の特性によって跳ね返ってくる超音波の周波数がシフトします。そのシフトを解析すると、地中に眠る資源の特定が可能なんです。言ってみればソナーと同じ原理ですが、地中内部の情報を取り出すために超音波を使うんですね」
それはPUZから聞いた話の受け売りであった。タカヒサは更に続けた。
「調査対象と自分の間に水の層が有っても、つまり海底であっても同じ原理で調べる事が出来ます。ただ、この調査で唯一、障害になるのは天候でして、波で船が大きく上下するとドップラー効果が生じて、不測の周波数シフトが起こってしまうんですよ。GPSによる高度補正にも限界が有りましてね」
アンドリューもエンジニアの端くれである。技術的な妥当性が有れば、素人よりもむしろその話を信じてしまう傾向が有る。しかし、自分自身の中で引っ込みが付かなくなってしまったのか、なおも質問を続けた。
「でも、どうやって、その南極海にまで行くんだ? この船はNZ止まりだぞ」
ココから先は、タカヒサのアドリブであった。
「我が社の駐在員であるアオタという男がNZ地区に居ます。地球でのコーディネートは彼に任せてあるので詳しい話は判らないのですが、多分、漁師の船をチャーターする事になると思います」
アンドリューはしつこい男であった。
「海上の天候はいつも大荒れだからなぁ。そんな都合良く好天に恵まれるとは思えん」
タカヒサが答えようとした時、ローズが割って入った。
「まぁいいじゃない、アンドリュー。グダグダ言ってないで、タカヒサの仕事が上手く行くように祈って上げなさいよ」
ローズの助け船は有り難かった。これ以上は、「腕利きの漁師を知ってるから大丈夫だ」みたいな、苦しい答えしか思い浮かんでいなかったからだ。ローズの明かな『タカヒサびいき』に、乗組員達はまた顔を見合わせた。彼女にしてみれば、それを隠すつもりも無いのであろうが。そしてこの日以降、タカヒサの仕事に関して探りを入れる者は現れなかった。
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