喋る奴

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ただいまあ、と私は二階建ての一軒家に帰って来た。誰もいないのを知っているのに習慣になっているのだろう。 「お帰りい」 二階の方から少年のような声で返事が返ってきた。 「え」 キチガイの泥棒かなにかか。私は驚きよりも恐怖を覚えた。 聞いたことのない声だし、仮に知り合いでも勝手に二階に上ったりするなんてあり得なくないか。 私は近くにあった傘を取り、靴を履いたまま家に入った。剣道をするかのように傘を持つ。こんなもので身を守れるのか。 階段をゆっくりと上る。 ……どっからでもこい。 手が小刻みに震えるのを自覚しながらも傘の先っぽは私の目の高さと同じにした。これは剣道の基本、と高校の武道での授業で習った。 二階は私の部屋(書籍部屋)と寝室がある。ドアはどちらも閉まっていた。 「お、おい。誰かいるのか」 声を出していいのかどうか、声を出してから疑問に思った。 (こ、この場合って最初から警察呼んでれば良かったんじゃ……) 後悔先に立たず。冷や汗が目に入りそうになるが私は拭わず傘を力強く持っていた。 「ああ、こっちだよ」 私の部屋から声が聞こえた。随分と穏やかに答えるものだな、と私は思う。 「お前の目的はなんだ」 少し冷静になってきた私は質問した。 「え、特にないけど」 「勝手に人の家に入りこんでか?」 「うん、遊ぼうぜ」 どうすればいいかわからず、ドアの前で硬直が解けない。 「おれは何もしない。早くこいよ」 それを聞いた私はゆっくりとドアを開ける。そこにはいつもと変わらない私の部屋だった。 「……クローゼットか? 」 机と二つの大きな本棚しかない部屋を注意深く観察しながら私は質問した。 「いやここだよ」 「え」 思わず声を出してしまうのは本日二度目だ。机の上から声が聞こえるのだ。 「……携帯か何かか?」 「あんたさあ、目見えないの? 机の上には万年筆と紙だけだろう?」 「いや、だからどっかに喋れる機械でも付いてるのかなって。え、誰でもそう思うだろ?……え、違うのか。」 状況が理解できないまま追い討ちがくる。 「おれは万年筆だよ。命があるんだ。」 命っていうものは男と女から宿るものじゃないのか。なぜか私は傘を万年筆に向けて思う。端から見たらただの変人だ。
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