【第三章】楽しいお昼休みです

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まったく。 あいつの天然タラシっぷりは鬼をも惑わすんだから、相当に質が悪い。 「そういえば五十嵐、お前いつから郁人に肩入れしてるんだ? まさか天下の風紀委員長が例の噂を知らない訳じゃねーよな」 去年、あいつを守るために優馬が故意に流した『郁人は最低なチャラ男でタチ』であるという噂。 噂が広まる以前――。 ただでさえ目立つ外部入学生の郁人は、あの見た目じゃいつ強姦されてもおかしくはなかった。 淡く柔らかな明るい髪、透けるように白い肌、中性的で美しく整った顔立ち、ほっそり……と言っても別にナヨっちい訳じゃねーが。身長のわりには華奢に見える体つきがどこか儚げで。 (意外と筋肉もしっかりついてるのには、俺も後で知って驚いたが) そして、あの殺人的な笑顔。 予想をはるかに超えた凄まじい破壊力。 が、あれはダメだ。 事前に知っていた俺ですら訳の分からない衝動に駆られるくらいだ。 青臭いガキどもが、そんな郁人の笑顔を見てまともでいられる筈も無い。タチもネコも区別なくキャパ超えの強烈なフェロモンに、腰を砕かれ失神者続出。 大量の鼻血を流し、前屈みでトイレに駆け込む奴。間に合わずに下着を汚しちまう奴。中には元ノンケだった者も多数いるとか。 とにかく、郁人の(腐妄想付き)笑顔が発動した場所は例外なくまるで地獄か戦場跡の如き姿になった。 ……ある意味、化け物だなアイツ。 事実を知る俺から見れば悪手にしか思えない、郁人の人間性を貶めるような内容の噂。 ではあったが、意図的にばらまかれた偽の話が一応の抑止力となり、その後は郁人と距離を置く生徒の姿も多く見受けられた。 しかし依然、無理やり襲って事に及ぼうとする輩も多く、というかむしろ噂が原因でより興奮度が増したらしい。……間抜けめ。 直ぐさま、間抜けな優馬は『親衛隊』を発足。自ら隊長となり、体良く隊員たちを郁人の優秀なボディーガードに仕立て上げた。 ついでに、ちゃっかり『郁人の恋人みたいなセフレ』とかいう自分に都合の良い噂まで流しやがって。 告白も出来ないヘタレのくせにな。 「俺は、肩入れしてるつもりはありません。だが彼に関する噂が全て真実だという証拠も無い。むしろ誰かが意図的に“作り話”を流したのではないかと思える節があります」 .
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