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「……テレビでね、みたんだけど。知ってる?」
母は世間話をするかのように、軽い口調で話し始めた。
その目は私ではなく、どこか遠くをみていた。
「首吊りって、自殺と他殺とじゃ全然違った姿になるそうよ。」
そういいながら母はようやく私のほうに顔を向け、私の目を見た。
その目は、何か決意をしたような目だった。
「自殺だと死体の顔は真っ青になって、他殺だと真っ赤になるんだって。
ホントなのかしら?」
母はそういうと、私から目をそらした。
母は黙って、私の言葉を待っていた。
何を言われても受け止めるというように、母は待っていた。
私はそのとき夢の中の父が、何を私に伝えようとしていたのか、わかってしまった。
きっと父は、私に真実を伝えようとしていたのだろう。自分の無念を晴らしてほしいと。
けれども私は、母に言わなければいけない言葉を、飲み込んだ。
「知らなかったなあ。だからかな、お父さんの顔が真っ青だったの。」
私はとぼけるように、母にそう言った。
母はゆっくりと私のほうをみた。その顔はいつもの母の顔だった。
優しい、私の大好きな母の顔だった。
「……まだまだ電車に乗ってるから、ちょっとは寝なさい。
着いたら起こすから。」
「うん、わかった。」
私は母の言われるがままに目を閉じた。
「おやすみなさい。」
私の額に母が手を当てた。
その手はあの頃と同じようにひんやりと冷たかった。
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