あの日の青さ。

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 視界が歪む。  ああ、俺、今、泣いてるんだ。  葬式でも泣けなかったし、もう感情を持ってないと思ったけど。  それでも、彼女のことなら泣けるんだ。  泣いても、いいんだ。  いつからか俺はあの事故の日の自分を何度も恨むことがあった。  運転手に関してはしっかりと罪を償っているらしく、いくら恨みをぶつけても意味がない。  じゃあ、この思いは誰に当てればいいんだろうと考えた時、俺自身以外にいなかった。  もしあと数分彼女のことを止めることが出来たなら。  もし彼女の真意に気づいてその場で絵を描いていたら。  そういっていつも自分のことを許せなかった。    でも、今は少しだけ違う。  もちろん自分を恨む部分もある。でもそれ以上に彼女の心を動かしていた自分の絵にどこか誇りがある。 「私は少し出かけてくるわね」  泣いている俺を気遣ってくれたのか、お母さんはそう言って玄関を出ようとしたら。 「あら、晴れたのね! 満点の青空よ!」  そう言われ玄関を出てみると。  先ほどとは打って変わって雲一つない青空になっていた。  虹が、太陽が、青空が俺のことを応援してくれているように思える。  今までの濁った気持ちが消え去る。  今はこの空のように澄み渡った青。  まるで世界が彼女の一輪の思いを体現してくれているかのようだった。  頑張ろう、いつまでも腐らず、踏み出すんだ。一歩ずつ。  手元で咲いているその絵をみてこう思うのだ。  ――俺はこの思いを生涯忘れることはないだろう。
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