あの日の青さ。

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 そこまで言って彼女の言いたかったことが何となくわかった気がした。が、 「確かに絵を描いていた時はそんな風だったと思う。でも、俺は、俺自身はお前と一緒にいる時間を大切にしたかったんだよ。その気持ちは汲んでくれないのか?」 「大事にされているのは分かっていたわ。でもね、それ以上にその姿が見たかったの」  どうやら一つだけ分かったことがある。俺らは求めているもの、相手に与えているもの、それらに勘違いがあったようだ。  俺は彼女に一緒にいる時間を、彼女は俺に絵を描いている瞬間が見たかった。 「絵を描かないのなら私はアンタと付き合う理由はないと思っているの。だから今日はそれを言いに来た」  つまり、別れたいってことか。 「……すまん、少し落ち着いて考えさせてくれ」 「わかったわ、じゃあね」  彼女はそのまま領収書をカウンターにもっていき会計を済ませ、こちらを一度も見ずに喫茶店を出て行った。
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