あの日の青さ。

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「……、はぁぁぁぁぁぁ」  今の気持ちを表現するなら間違いなくブルーだ。結婚を考えていた相手に俺なりに尽くしていたのだが、その尽くし方が違ったため別れるという見事な散り方である。  相手の求めていることが俺自身が与えたいことと一致するなんておかしな話なのに、それを俺は確認もせずに付き合い始めてからずっとそうし続けてきた。 「ん、でも、待てよ……」  冷静に考えてみて、彼女の話にはおかしな点があると思った。  付き合い始めてから二年未満、俺が絵を描かなくなったのが去年なので実質一年くらい。その間彼女は俺に絵を描いてほしいということを我慢していたのだろうか。  いつも一緒にいた彼氏として、間違いなく言えるが我慢していた素振りは一切見せていないと思っている。  もし表情に出さずに我慢していたとしても、我慢していたら特有の雰囲気や気まずさがあったと思うのでもっと早く破局していた気がする。 「なぜ急にそんなことを言い出したんだ……?」  それだけはなぜか確認したくなったので急いで彼女の後を追うことを決める。  席を立ち、外に出ると小雨が降っていたが、生憎傘なんて持っていないし、今から走ることを考えれば邪魔である。  彼女の向かった先を瞬時に候補に挙げ、まずは彼女の下宿先に向かうことにする。  5分前くらいに喫茶店を出て行ったので、全力で走ればまだ路上にいるだろう。  足に力を入れ、表通りに出て――なぜか辺りが騒がしいことに気づく。 「な、なにがあったんだ……?」  嫌な予感がする。  頭の中はぐちゃぐちゃなのに、一瞬でクリアになり、何も考えられなくなる。  急いで騒ぎの方に向かって歩を進める。  呼吸がだんだんと荒くなっていくのがわかる。  一歩、また一歩。  集団に近づくごとに心臓が鷲掴みされる。  気分が悪い。  ザワザワ、ザワザワ。  だんだんと周りの声が聞こえてくるようになる。  しかし、言語は理解できても言葉の意味は分からない。  また一歩。  そうして騒ぎの中心にどうにかして着く。 「誰か救急車を!」 「キャァァァッ!!!!!!!!」 「誰でもいいから応急処置できる奴はいないのか!?」  ――――彼女が車に引かれていた。
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