あの日の青さ。

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 それからはあんまり覚えていない。  彼女は即死だったそうだ。  病院で医者の言葉も耳に入らなかった。  その後すぐに行われた葬式に参列しても涙は出なかった。  事故の原因はよそ見運転で、赤信号を思いきり走っていた車に、彼女はぶつかったそうだ。  大学にもそれからほとんど行かなくなり、引きこもる毎日が続いた。  髪や髭は伸び、飯も最低限しか食わなくなった。  そんな俺をどうにかしたいと考えたのか、それとも何かしらの意図があったのかわからないが、彼女のお母さんから2日前に連絡がきたのである。 「あの子の物を整理してるときに、あなたの物がでたから一度見てもらいたくて。私の一存でこれを扱うのは悪いと思ったから連絡しました。よければ明日か明後日にでもどうかしら」  いつも時間があれば彼女のことを考えてしまうが、所詮は空想であり、後悔である。  ただ、この話は違う。  彼女の母親に会い、事実と向き合うのである。  その覚悟は俺にあるのか。  分からない。  正直言って逃げ続けたい。  しかし、ここで逃げたら彼女に対して失礼な気がした。  最後のチャンスな気がした。彼女の真意に触れる、最後のチャンス。  向き合う必要があるだろう。それは彼女ともう一人。  自分自身に。  急な連絡でビックリしたものの、お母さんには葬式の時に挨拶できなかったことも考え、一度その件でも謝りたかったので向かうことを決めたのである。  しかし、人前に出れる姿ではないので一日時間を作った。  昨日は美容院で一応髪や髭を剃ってもらい、人前に出ても恥ずかしくないようにするのと、一日かけて向き合う覚悟を固めるつもりであった。  美容院の人には驚かれたが、外には出れたのはよかった。  ……直視できるのだろうか、俺は。  得体のしれない不安を抱え、家を出てみると、あの日と同じくらい小雨が降っていた。
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