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水青の話
僕の友人に、Oという男がいる。
この男は生物学者で、民俗学者の僕とは畑が違うが気が合って──主に奇談、怪談の類を好む辺りが──時どき互いの家を行き来し、酒盃を酌み交わしたりしている。
これも、そんな折に彼から聞いた話である。
何年前のことになるだろうか、うちに書生がひとりいてね、これがなかなか気の利く男で重宝していたんだ。
秋も終わろうというある日、私はこの書生に蔵の掃除を頼んだ。真面目な男だったからすぐに掃除を終わらせると、小さな木箱をひとつ持って私のところにやってきた。
彼が手にしていたのは、淡い翡翠色の翅を持つ蛾の、古びた標本だった。
何十年も前に作られた割には状態がいいという他は、特段珍しい種の標本でもなかったし、蔵掃除の駄賃としてくれてやったさ。ああ、今となっては彼に渡すべきではなかったと思っているよ。
それからだっだ、彼の様子がおかしくなったのは。快活で機敏だった男が、上の空になることが多くなり、部屋に引きこもりがちになってしまった。
病でも得たのかとこっそり部屋を覗くと、例の標本をじっ、と見つめて微動だにしない。
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