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これは病は病でも、精神の病ではないかと考え、病院に連れていくべきかどうか思案しているうちに冬を迎えた。
その年の初雪が降った夜のことだった。夜半にふと目を覚ますと、閉じられた障子の向こうから『先生』と書生の呼ぶ声がする。
布団から身を起こし、『どうした』と声を掛けると、すっと障子が開いた。
『夜分遅くに申し訳ありません。今日は先生にお願いがあって参りました』
そこには夜中だというのに、きちんと身形を整えた彼が縁側に正座しており、隣にはなぜか白無垢を纏った女性が面を伏せていた。
白無垢が、夜気のせいかいやに蒼く見える。
あまりに現実感がない光景に、私はこれを夢だと断じた。そして、どうせ何が起こっても夢だからと気楽に構えて、『なんだね、言ってみなさい』と返した。
『はい。実はこの度、妻を迎えることになり、また彼女の郷に居を構えることになりましたので、お暇を頂きにあがりました』
『それはまた、急な話だね。しかしまあ、君も嫁がいてもおかしくない歳だ。二人で決めたことことならば、私が止める道理はない。ここを離れてもしっかり頑張りなさい』
現実にこんなことを急に言われたら叱りつけるところだが、夢だと思って簡単に許してしまった。
『ありがとうございます。ほら、水青。君からもお礼を』
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