第四章:ボン、キュッ、ボン

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2  それは身長180cmを優に超える女性であった。肌は雪のように白く、肩甲骨辺りまで伸びるストレートヘアーは金髪。グリーンの瞳が印象的で、その美しい顔立ちは、コテコテの東洋人には無い神々しさを秘めていた。「また外人さん?」と不安にならないでもなかったが、先日の団体さんとは異なり、彼女は一人のようだ。しかも女性という事で、幾分なりとも京子の懸念を軽くしてくれていた。  長身であるといっても、ファッションモデルの様なガリガリの病的なイビツサさは少しも無く、必要かつ十分な肉が彼女の全身を覆っている。その張りの有る豊満な胸はメロンほどもあり、彼女が歩くたびに悪戯っぽく揺れた。対して腰は見事に引き絞られ、それが腰であることを強烈に主張している。一方、そのお尻は胸と対を成すかの如く拡張され、貧相な日本人のそれとは別次元の美を創出していた。だがそれは決して大き過ぎる事は無く、必要以上に「ボン」となっているわけではなかった。  「ありゃぁ、確かに『ボン、キュッ、ボン』だわ・・・」  そう思うと同時に、またこうも思った。  「確かに、敏文にこんなの見せられないわね・・・」  京子は自分の惨めな裸体を思い浮かべ、恥辱とも屈辱ともつかない気持ちにまみれながら、それでも羨望の眼差しを送らずにはいられなかった。  何が凄いって、彼女がその裸体を人前に ―その相手が女性であったとしても― 晒すことに、何の躊躇も見せない事だ。日本人であれば、タオルで胸を隠したり、あるいは隠さないまでも若干の羞恥心を滲ませたりするものであるが、その女性は、それこそファッションショーのランウェイの様に、あるいは歌舞伎の花道の様に堂々と歩き回り、周りの東洋人の視線を鷲掴みにしていた。  また、風呂で座るという文化を持たないのか、ソープやシャンプーが置いてある台の上に片足を載せ、立ったままその全身を洗う姿は、淫靡な黒い下着とマスクを着けていれば正に女王様の様な立ち振る舞いであった。「私の靴をお舐め。おほほほほ」みたいな感じだ。彼女の左側で体を洗っていたおばあちゃんは、あまりの事に開いた口が閉じないようで、上顎の入れ歯が外れて下顎と噛み合わさっている事にすら気付いてはいなかった。  『掃き溜めに鶴』とはよく言ったものだ。別に、周りに居るおばちゃんやおばあちゃんたちがウンコ ―その時の京子は、『掃き溜め』と『肥溜め』が別物であることに気付いていなかった― だとは言わないが、彼女の完璧な裸体の前では、ウンコ呼ばわりされても反論はしないだろう。そんな勇気など無いに違いない。申し訳ないが、ヨレヨレになったおばあちゃんのオッパイが、彼女のオッパイと同じ機能をかつては持ち合わせていたとは、どうしても思えなかった。  「私のオッパイ?」  京子はふと自分の胸に思いを馳せた。確かに『量』では敵わない。でも『質』なら・・・ いやいや、私は自分のオッパイの質を語れるほど多くの経験を積んでいるわけではない。それは将来出会うであろう素敵な男子に、その評価を委ねるしかあるまい。  『鶏群の一鶴』、『泥中の蓮』、どれを選択したとしても、日本人連合の浮かぶ瀬は無さそうだ。きっと、太平洋戦争でアメリカの物量作戦に晒された当時の日本人は、今の様な敗北感を味わったに違いない。そう言えば、彼女の後ろに座っているおばあちゃんなんか、そのはち切れそうな巨大なお尻を見上げながら、両手を合わせて拝んでいるではないか。日本は負けたのだ。勝てるはずなど無かったのだ。  というか、彼女はアメリカ人なのだろうか?
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