第五章:やっぱり見えない!

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2  その健太郎が京子の目の前で服を脱ぎ、あられもない姿を晒したのだから、そりゃぁもうアタフタするなと言う方が無理である。健太郎の褐色の身体には、およそ余分な脂肪などという物は付いておらず、キュッと締まったお尻は適度な硬さを誇示しつつ、その存在を主張していた。その尻に頬ずり出来るのであれば、京子は死をも恐れないであろう。その姿はギリシャ神話に登場する、天から遣わされた何とかの神みたいな感じで、彼の周りを走り回るタケシとケンジすら、何らかの天使のように見えた。何故かそこには、やたらと身体のでかい天使も一人、紛れ込んでいたが、それは信之だった。  ちょうどその時、父の光男が番台の出入り口から顔を出し「そろそろ交代するか?」とフザケタことを言うものだから、ついつい京子は「今、いいところなんだから!」などと訳の分からないことを口走ってしまうのであった。  京子が健太郎の、そんな後姿に見とれていると、何かの気配を感じたのか、彼がクルリと体を回し、京子に正対した。  「えぇ~っ! フロント・ビューの大サービスですかぁ!?」と、京子の心拍数が二倍ほどに急増した瞬間、それが起こったのだ。  どーしても、どぉーしても、健太郎のそれが見えないのだった。他の物は見える。彼の逞しい胸筋や、パックリと割れた腹部の6パック。サッカー選手特有の著しい太さを誇る太腿。小さな頭部を支えるには太過ぎる首と、そこに隠された喉仏の隆起。それらの美し過ぎるパーツによって形作られるギリシャ彫刻の様な完璧な肢体はハッキリ見えるのに、それだけが見えない。  そんな筈は無い! 自慢じゃないが、私ほど数多くのそれを知っている女子高生など居ないと自負しているのだから。だてに中学生の頃から、この『華の湯』の看板娘をやっているわけではない。それなのに、これはいったいどうしたことなのだ?  試しに右に視線を移してみると・・・ 何処かのオヤジが、自分で持ち込んだ団扇で股間を扇ぎながら「ほぉーっ」などと薄気味悪い声を発しているではないか。何かスース―する薬でも塗ったのだろうか? そこには、おぞましくてやる気を失ったそれがデロンと垂れ下がっていた。一方、走り回る天使を見てみれば、そこには小学生の可愛らしいなにが見える。それはまだ固い蕾のようで、少年が飛び跳ねる度にピョコピョコと上下運動を繰り返し、それが本来の機能を発揮するには、まだだいぶ時間が掛かりそうだ、などとオバサンの様に思ってみたりする。つまり私は、それを見たくらいで「きゃーっ」などと顔を赤らめる様な、初心で純真無垢な乙女ではないのだ。それなのに健太郎を見てみると・・・  『ピッカ―――ッ!』  見えない! やっぱり見えない! 眩いばかりの光が京子の目を射抜き、どうしても健太郎先輩のそれが見えないのであった。それはお釈迦様の後ろから差す後光の様に、神々しい威厳に満ちた、この世の物とは思えない光の束である。本来、後光とは何かの後ろから発せられるものであろうに、健太郎先輩の股間から照射されるそれは、後ろではなく明らかに前から発せられていた。考えてみれば私が見たものの多くは、全てオヤジか子供のものである。ひょっとしたら、ナイスな若者のそれに関しては、圧倒的にその観察頻度が低いが故に、これまでの様な「直視」が出来ないのであろうか?  京子は番台から身を乗り出し、両目をゴシゴシして目を凝らした。でもやっぱり見えない。女子高生がそんな風にして男子の股間を凝視することは、普通、有ってはならないことだということに京子は気付いていなかった。  「私もまだまだね」などと妙に納得してみても、やっぱり腑に落ちない。  そんなに見たいのか、と問われれば、正直に答えよう。見たい。素敵な健太郎先輩のそれが見たいのだ! 悪いかっ! 開き直る自分が情けなくて、自己嫌悪に陥る京子なのであった。  この理解不能な現象に対し、京子はこんなことを思わざるを得なかった。  「ゴメンね、ジェス。私にはやっぱり健太郎が必要みたい」  どちらの男に対しても、勝手なことを言っている。まぁ、その辺は夢見がちな女子高生ということで勘弁してもらおう。それよりも、この現象が意味するところは、図らずも京子が感じた様に、健太郎に対する特別な感情という一点に尽きそうだ。今までに何本のそれを見てきたかは知らないが、やはり特別な人に対しては、身も心も特別な反応を示すということだろう。これを人は『乙女心』と言うのかもしれない。  その時であった。健太郎の周りを走り回っていた天使の一人が、脱衣篭に躓いて転びそうになった。その天使、いやタケシは、「危ないっ」と言う間も無くつんのめり、健太郎の股間に向かってダイブした。タケシの必要以上に硬い頭部が、健太郎のそれを直撃した。  「ちーーーん」と音がしたかどうかは判らないが、状況としては正にそれだった。健太郎は、思わず声を上げた。  「いやん!」  「へっ?」京子の目がパチクリした。健太郎は続けて言った。  「バカッ! 気を付けなさいよっ!」  「・・・・・・」  番台の中で、京子の身体はズルズルと沈んでいった。
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