le sacrifice ultime

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 風の戯れは森に命を吹き込み、大地に根を下ろした木々の枝葉を靡かせる。そして、それに呼応し一帯に生い茂るグロテスクなシダ植物が騒ぎ出すと、体を揺らし侵入者に畏怖の念を抱かせる……。 「そこまでだ!女吸血鬼!!」 「あら……人間の娘が何の用かしら?」 「我はヴァンパイアスイーパー!我の魔力にて、お前を倒し世界に平和を取り戻す!!」  とある二つの影が刃を交えようとしていた。 「私を倒して平和を取り戻す?フフフ、何か勘違いしてるようね。平和を乱しているのは貴方たち人間よ!」  女吸血鬼(ヴァンパイア)キースは言い終わるより早く術士の間合いに踏み込み、爪の一撃を浴びせた。  しかし鋭い爪が引き裂いたのは術士の残像。  術士はすでにキースの背後へ回り、間合いを取ると印を結び護符(ドッグイヤー)を空中へ投げた。  宙に舞った護符はキースを標的と捉え、一直線に襲いかかる。 「ふんっ、こんなおもちゃ……」  ヒラリと身をかわしたキースがゆらりゆらり術士へ詰め寄ろうとした時、かわした護符が向きを変え、キースの右腕を跳ね飛ばした。 「っ!」  腕から紫の血が流れ出る。  キースは落とされた右腕を拾い上げ、チラリと術士を見やり不敵な笑みを送ると、切断面を舐め、腕をくっつけた。 そして付けた腕を回し、掌を開閉し、調子を確認する。 「クククッ……アルンアロファ《瞬間接着》。このとおりよ?」 「驚いた……そこまで術が出来るとは」 「あら、驚くのはまだはやいわよ?ほ~ら」  キースが広げた右手指先から伸縮()()の糸が放たれ、術士の四肢を束縛する。  四肢の自由が効かなくなった術士は束縛を解こうともがく。抵抗虚しく徐々にキースへ吸い寄せられていく。 「チェックメイト。いただきます」  舌舐めずりをするキース。  術士の両肩を掴み、首元へ一気に(ホッチ)(キス)いた。 「……念人(ねんど)?」 「今のは際どかったわ」 「くっ!この私をここまでコケにするとは!フフフ、アハハハハハハ!!!……もういい。認めるわ、あなたの力。フフ!その力、欲しくなっちゃったわ!さぁ、ここからが本番よ!!」 「いいえ、もうお終いよ」 「()かせ……降神(おりがみ)!」  キースが術を唱える瞬間を待っていた。  術士はすかさず身構え、印を結ぶ。
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