le sacrifice ultime

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幕状の物体(おりがみ)がキースの背後に具現化されるとほぼ同時に、その四隅から掌がぬぅっと出てキースの手足を(クリップ)んだ。 「合成術、()()悪戯(クリップ)」 降神に合わせて繰り出された術は、キースの動きを封じた。 「お前にはこの術を解く能力(ちから)は在るまい。これでとどめよ!」 術士がとどめを刺しにかかる間際、四肢を張り付けられたキースの胸元からロザリオが浮かび上がった。すると、辺りの空気が澱み、森全体が地鳴りを上げて揺れだした。 キースの口元が不気味にひきつる。 「貴方たち人間は、私利私欲の為に奪い合い、傷つけ合い、そして殺し合う、この星に寄生する害虫……どこまでこの星を蹂躙すれば気がすむのかしら。そんな貴方たち人間を私はもう許さない」 「だからと言ってお前がしている事は許されるのか?今お前が言ったことは、正に今の自分の姿じゃないのか?」 キースは笑い出しそうなのを堪え、言った。 「貴方たちと一緒にしないで。これは神の裁きよ」 「神にでもなったつもりか?」 「そんなつもりじゃないわ……貴方、『闇の太陽』の話、知っているかしら?」 構えを解かない術士に、キースはため息を一つ漏らす。 「フフフ、知らなくて当たり前よね……まだ貴方が生まれるずっと前の事ですもの」 キースの目つきが変わる。 そして静かに呟いた。 「貴方には分からないでしょう。私たちのこの星への愛の深さが。さぁ、そろそろおやすみなさい、人間の子……Le sacrifice ultime」 (!?) 不安が術士を襲う。 揺れが収まると澱んだ空気は一掃され、張り詰めた緊張感がその場を支配した。その瞬間、胸の前に浮かんだロザリオがキースの心臓へ突き刺ささり、噴き出す紫の血で身体を球状に覆い始めた。 (……嫌な予感がする!) 不穏な空気に近寄ることが憚られ、距離を置いて攻撃するも紫の球体に全てが弾かれてしまう。 (うっ!) 感じたことのない圧迫感。 息苦しい場の空気。 術士の脳裏に微かな死の予感が浮かぶ。 術士はすぐさま、躊躇なく自分の左腕を護符(ドッグイヤー)で断ち呪文(・・)を唱えた。 (っつ!やむを得ない、命には変えられない) 回転し始めた紫の球体は、勢いよく空高く跳ね上がり上空の雨雲を蹴散らした。 「紅い……満月」 「あら?あなたの知ってる満月は紅色なのかしら?」 「え?」
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