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キースは術士の顔を覗き見ていた。
術士が見た紅い満月は、キースの紅い瞳だった。
術士に戦慄が走る。
さっきとは眼の色が違うだけで他に変わった様子はないが、決定的に違うのがキースを纏う雰囲気。彼女に存在感を感じないのだ。
(気配が……無い)
「あぁ、すっごく気持ちいい……天にも登る気分とはこのことなのね?フフ、ごめんなさい。ひと思いにヤって差し上げればよかったかしら?クククッ」
「何が可笑しい!?」
「フフフ。まだ分からない?あなた、鈍いわね」
「なに!?」
「これな~んだ?ウフフ!」
悪戯っ子の様に振る舞うキース。
キースが手にしているのは、術士の右腕だった。術士はその時初めて自分の右腕が切り落とされているのに気付いた。
「くっ!!」
「……不味そうだし返してあげる」
圧倒的な強さ。
それを裏付けるスピード。
当然魔力も上がっているに違いない。
一瞬にして落としかねなかった命をキースの戯れで繋ぎ留めた。確実に迫る死を前に、命以外の犠牲を躊躇っている場合ではない。術士はそう思った。
(両腕はもう使えない。そろそろ決めなければ持たない!奴が油断しているうちに!)
術士は両腕に息を吹きかけ、呪文を唱える。
「血を継ぐ者命ずる!出でよ『舞踊を楽しむ者』」
「まだ何か見せてくれるのかしら?良いわ、待つわ。本気のあなたを完膚なきまでに叩きのめしてあげる。ククク」
時間にして1分。
術士にとって途方もなく長い時間だった。
(あと少し…)
しかし、
「ごめんなさいね?もう、待てそうにないの!!!」
痺れを切らしキースが突然襲いかかる。
捉えた、キースは確信を得た。が、鼓膜が裂けそうな金属音とともに右腕に走る電撃は、およそ骨肉を切り裂く感触とは違った。
「ギリギリ間に合った。絶対不可侵領域」
「マスター、おまたせしました~」
「マスター、おまたせしました~」
「助かった……ん?君たち!?」
「母上はもう引退したいって言ってまして……」
「代わりにわたしたちが行けと……」
「まぁテレプシコレのお墨付きなら心配ないか。守りは頼んだよプリマ、ドンナ」
「了解で~す」
「了解で~す」
「何そのふざけた生き物たちは?」
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