adieu

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 彼女が一体何者なのかは、今のケイシーにとって()して重要ではなかった。  シンを救ってくれる。それだけがケイシーの救いとなった。  今はキリリを信じて、もう会えないかも知れないと考えるより、生きていればいつかまた会えると一縷の希望を胸に、ケイシーは立ち上がった。キリリから別れ際に渡された黒のローブを纏うと少しずつではあるがケイシーの目に光が燈り始めた。    意を決して、ケイシーが部屋を出ようと一歩踏み出した時だった。  大広間の階段から騒ぎを聞きつけた兵士がガシャガシャと音を立てこちらへ向かってくる。  出入り口は一つ。ここから逃げても確実に捕まってしまう。部屋の奥は。ケイシーは瓦礫の山を回り込んで奥へ急いだ。しかし、あるのは散乱した拷問器具のみで、他に身を隠せるような物陰はなかった。  二人。足音と会話の様子から見回りの兵士は二人のようだ。もう部屋の出入り口まで来ている。    瓦礫の中腹に、ケイシーは息を殺し身を潜ませた。二人の兵士は二手に分かれ、瓦礫の左右から部屋の奥へ進む。手に提げた灯りが時折( )(そば)(かす)め、その都度ケイシーは息を飲んだ。   奥で合流すると兵士は天井を見上げ、灯りで上層部を照らすが、大穴が開いた先までは光が届かずよく見えない。そしてまた二手に分かれ、出入り口で合流すると最後に振り返ってもう一度中を確認し、部屋を出て行った。  ケイシーは、兵士が去った途端に思い出したかのように大きく深呼吸した。一瞬気が抜け、無雑作に動かした足が瓦礫を、(わず)かだがガラガラと音を立て崩してしまった。それは静かな城内に響かせるには十分だった。ケイシーは慌てて口に手を当て、出かかった声を腹の底へ押しやった。    (くう)を見つめ、再び気配を殺し兵士達の再来に備える。 (……明るい)  ケイシーが見上げた先、二階の窓からは、雨雲が晴れ太陽の光が差し込み、それがガラスに反射して一階の拷問部屋まで明るく照らし出した。この状況下では今度こそ間違いなく見つかってしまうに違いない。    しかし、兵士達は戻ってこなかった。    部屋が明るくなり、辺りの様子もよく見える。だが、見えると言う事は、今まで認識できなかったモノまで認知してしまうと言う事だ。    瓦礫を降りる途中、ケイシーはふと何かと目が合った気がした。そして、そちらへ視線をやった。 「い、いやーーーーーーーーーーーっ!!」  細切れになったマークの眼と目が合ったのだった。  それは、未だ何かを探しているのかギョロギョロ動いている。  兵士達も流石に悲鳴を聴けば有事と判断がつく。無論、先程の兵士達が引き返して来た。 「やはり誰かいるのか!?出て来い!」 「お前はそっちを探れ。俺はこっちを見る」  二人の兵士が部屋を改める。  パラパラと部屋の隅の天井が崩れると、兵士は瞬時にそちらへ目をやる。   「()も調べろ!」  兵士の一人が言われて瓦礫を上る。 「な、なんだコイツは……」 「どうした!?」  もう一人の兵士も直ぐ様瓦礫の上へと駆け上がった。  
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