adieu

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「おい、これまだ動いてるぞ……」 「き、気味が悪い」  二人が見つけたのはマークの肉片だった。  いったい何故こんなものがあるのか疑問に思う事すらままならない程不気味で、悍ましく、衝撃的なもので、誰でもあんなものを見てしまえば不安がる。  それは、この兵士達が直に感じていること。  もしかしたら自分達もああなるのかもしれない。  自ずと声が上ずる。 「さ、さっきの叫び声、空耳じゃないのか?」 「だったらいいが、お前も聞こえただろ?はっきりと」 「お、おう……。あ、あれをみろ!ほら」  不穏な空気に耐えかね、ひとりが崩れた天井の穴を指差す。二階の部屋に敷いてあった絨毯が、崩壊した(ふち)からダラリと垂れ下がっている。兵士のひとりはそれを引っ張り、ずり落ちてこないことを確認すると、徐に甲冑を脱ぎ絨毯を手繰って二階へ上がっていった。それを見て、下に残った兵士が声をかけた。   「おい、何かあったか?」 「いや、何もない」  すると、また新たに甲冑を揺らして部屋に向かって兵士がやって来ると、部屋の出入り口から中の二人に急かすように言った。 「二人とも!セバス様がお呼びだ!今すぐ来い!」  結局、ふたりは何も見つける事なくあからさまに安堵の顔を見せ、拷問部屋の扉をバタンと閉め出て行った。  ケイシーは、ドスンと尻餅をついてその場にへたり込んだ。扉の裏に隠れていた彼女は、心臓の鼓動が兵士に聞こえるのではないかと気が気ではなかった。  そしてケイシーは身なりを整え、フードで顔を覆い隠し城外へ出た。    庭園に咲く薔薇が前より活気よく見える。  思えば、あそこで起きた出来事から自分を取り巻く世界が一変した。しかし、度し難いほど壮絶で狂気をはらんだ、最も現実離れしたあの世界において、幻想的であり叙情的な体験はケイシーに憧憬の念を抱かせた。    雨露を浴び仄かに薫る薔薇の余韻を残し、ケイシーは再び歩みを進めた。
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