adieu

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 足が取られる程に鬱蒼と生い茂る草木の中を進み、ケイシーはある所までたどり着いた。そこは、泉を挟んだ家の対岸だった。ここまでは衛兵のバリケードも及ばず、誰にも気づかれる事なくやって来れた。 (確かこの辺りに)  ケイシーは、身をかがめて草が生えていない地面の土を掻いた。すると扉のような木の板があらわれ、彼女はその取手を掴むと引き上げた。  そこには、ひと一人が通れるくらいの穴があり、下に延びる梯子が掛けてあった。ケイシーはその梯子の手摺りを掴むと、慎重に下り始めた。 (下まで降りたら後は突き当たるまで真っ直ぐ)  足が着くと、壁を伝って真っ暗の中を進んだ。頼りは手に伝わってくる感覚だけだ。 (!? ここだけ平らな壁?)  ケイシーの右手に凸凹(でこぼこ)した壁面から平らな感覚が伝わって来た。彼女は立ち止まり、その周りを(まさぐ)り、コンコンと軽くノックする。 (木の……扉。何か彫ってある)  気になるところではあるが、何も見えなくてはどうすることもできない。  それに、今はそれどころではない。  早く祖母の元へ行かなくてはならない。  ケイシーは再び暗闇の中を進み始めた。 (あった。ここを上がればすぐそこ)  梯子を上れば家の物置に出るはずだった。  しかし、物置に誰かがいる気配がする。ケイシーは耳を澄まし、様子を窺った。上から誰かの話し声が聞こえる。   「おい!早く出るんだ!家に火を放つぞ」 「急げ!燃やされちまうぞ」 「あの婆さんみたいにはなりたくない」 (お婆様!?)  ケイシーは一瞬、耳を疑った。  そして騒つく胸を抑えきれず、物置に飛び出した。幸い、衛兵は既にこの場におらず、ケイシーは見つからずに済んだ。が、不安が払拭されたわけではない。 「お婆様!どこ!?お婆様!?」  ケイシーに戦慄が走る。   「お婆様!!お婆様!?……ねぇ、どこ?」  ケイシーの脳裏に嫌なイメージが付き纏う。衛兵の言葉が嘘であって欲しい。  しかし、彼女は見てしまった。  物置部屋の隣、暖炉のある部屋の窓から丸太に張り付けられた人型の物体が燃え上がるのを。  ケイシーは自分を責めた。  シンに続き祖母まで巻き込んでしまい、ケイシーは自分に怒り、憎んだ。
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