adieu

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 立て続けに起こる悪夢に茫然自失のケイシーは、それが原因か、はたまた願望の表れか、幽かに祖母の声で名を呼ばれている様な幻聴が聞こえた。  まともな精神状態にない彼女は、ただその声に引き寄せられていった。 「お婆様……待ってて、今……行く」  声に向かうにつれ、ケイシーを呼ぶ声が幾分か鮮明に聞こえてくる。 「ここでよく本を読んでもらった……。そう、この暖かい匂い、古びた本の匂い、とても落ち着く。あぁ、お婆様の匂い……お婆様の」  そこは祖母の部屋だった。  嗅覚への訴えは、僅かに、ケイシーを冷静にさせた。色と形がボヤけた視界が秩序を取り戻すとケイシーはある異変に気付いた。   「お婆……様?お婆様!!」  床で蹲る祖母の姿を見てケイシーは直ぐに駆け寄った。手を差し伸べ、体に触れると幻ではなく確かにここに祖母は居る。そして、生きている。しかし祖母は相当衰弱している。 「お婆様!!」 「ケイシー……頼みがある」  ケイシーは祖母に聞きたいことが山ほどあったが、今は身の安全が最優先だ。祖母の力のない声を漏らす事なく聞き取り、傍から祖母の支えになって物置部屋からさっき来た抜け道へ入った。    来る途中に家から持って出た灯りを点し、二人はゆっくり進む。明るくなったせいか、先まで見通しが効くと一直線の抜け道がやたらと長く見える。  通路の中間くらいに差し掛かった所で、祖母が足を止めた。息が荒く、立っているのも辛そうだ。 「大丈夫?少し休んだら?」 「だ、大丈夫じゃよ……もう少し進むと、右に扉がある。その中へ……」  祖母の言う通りに進むと確かに扉があった。 「あった……さっきは気づかなかった」 「そうじゃ」 「こっちの扉は」 「そっちは開けてはならぬ。もっとも、開けることが出来ないがね。それより早く……この鍵で中へ」  黒く重厚な鉄の扉だが意外と軽く、片手だけで簡単に押し開けた。中から冷気が流れてくる。二人は中へ入った。   「ここは」 「ありがとうケイシー。ここは墓じゃよ」 「えっ?お墓……」  壁一面に文字らしき模様が施してあるが、所々に絵も交えて描かれていた。その中で一番目に着いたのは、腰の辺りまで伸びた髪の女性二人が向い合い、一人の右手ともう一人の左手を握っている絵だ。そして、握り合っていない手で扉の方を指差している。  左右対象に描かれた二人は鏡に映した様に、瓜二つの容姿だった。  ここに描かれたどちらかの人物が眠っているのだろうか。もしくは二人ともここに。    ケイシーは部屋の真ん中にある石棺に手を触れる。ひんやりとした感覚が指先に伝わるが温かみを帯びた石だ。ケイシーはその石に何かが施してあるのに気付いた。 「ここ、何か彫られてる。名前?」  ケイシーは彫られた部分を指でなぞった。 「これ……どう言うこと」  そして、彫られた名前を見るやケイシーは驚愕する。  そこにはこう彫られていた。 『ケイシー=ハイチ ここに眠る』と。
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