adieu

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「ケイシーや。今まで何も話してやれずすまなかったね。ここに来たのも大切な話があるからじゃよ」  一言ずつゆっくり、息苦しそうに言葉にする祖母は、遺憾の意を表した。祖母の具合を気に掛けるケイシーは、膝を枕に彼女を横に寝かせた。 「ううん、それよりお婆様……兵たちに捕まらなくて良かった。私のせいでお婆様を危険な目に合わせてしまった」  ケイシーは涙を流し謝った。  祖母は微笑んでケイシーに応えた。そして、大きく息を吸い話し始めた。 「謝るのはわしの方じゃよケイシー。お前のせいでは無い。こうなる事は覚悟しておった。いや、これはなるべくしてなった事。わしの宿命じゃ」  険しかった顔が、和らぎの表情を浮かべ祖母は続けた。 「ケイシーや、よくお聞き。お前も薄々感じているだろうがお前のその血、紫紺の血はヴァンパイア一族の証。そしてこの石棺に刻まれた名、ケイシー=ハイチはキース=ホッチの双子の妹。ヴァンパイアが双子を産む事は忌み嫌われた。謂わば『忌み子』なのじゃ。故に、その存在は公には知られず、ごく一部の者が知るのみ」 「忌み子……私と同じ名前」 「そのケイシー=ハイチはワシらの先祖じゃ」 「先祖……」 「うむ。四百年前に、キース=ホッチ、真紅の薔薇姫様が召喚士に封じられた話は知っておろう?その召喚士の封印の力が弱まるのがこの年なんじゃ。それに向けて我ら一族は薔薇姫様の復活を計画していたんじゃが……」  しかし、魂だけの存在となったキースの復活には、新たな身体が必要だった。なぜなら、四百年もの間、肉体を維持することはいくらヴァンパイアの魔力を以ってしても不可能だという。   「何か手立てはないものか。何としてでも薔薇姫様を復活させたいと願った。忌々しい召喚士に復讐する為に……。そこで一族は、双子の妹ケイシー=ハイチが提唱した案で計画を進めた」  祖母は、まるで自身の体験談をしている様な感情の昂りを見せている。  そして祖母は、呼吸を整えケイシーに強い眼差しを向けると言った。 「その計画は、ケイシー=ハイチの子孫が薔薇姫様の依代になると言うものじゃ。そう、ケイシー、お前にその役目が巡ってきたのじゃ」
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