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いつも気丈に振る舞う祖母が初めて見せた弱さ。マーヤの心境を察し、ケイシーは優しく頭を撫でた。手に伝わる感覚が、大きく柔らかな安心感を与えてくれていたのに、今では小さくて愛おしく、儚さすら感じてしまう。
母の記憶がないケイシーにはマーヤこそが母であり、唯一の家族だ。ケイシーは、すぐ身近に居る人がそんなに辛い人生を歩んでいたことを知り、歯痒く思った。
「ごめんなさい……お婆様。私……」
「謝ることはないよケイシー。さっきも言ったじゃろ? わしが何も言わなかっただけじゃ。いきなり役目を果たせなど言われても困惑するのも無理はない。そう、確かにお前にとっては理不尽極まりない話……しかし、解せん事がひとつ。ケイシーや、成人祭の日に陛下に謁見できておらんじゃろ?」
「ええ、でもそれは執事様が私の怪我を配慮されて……」
ケイシーはマーヤにその日何が起きたのか話した。そして、マーヤはキースがケイシーの潜在意識に存在すると知り安堵し、続けた。
「ケイシー、成人祭の本当の目的は何か分かるかい?」
その言葉が、拷問部屋でのマークの会話と重なりケイシーは胸が騒つく。
「……魔女狩り。私たちヴァンパイアを……」
「じゃが考えてみよ。狩られるのがわかっていてわざわざそんな所へ行くか?行かんじゃろ」
ケイシーは、小さく頷いた。
「よいかケイシー、魔女狩りは世の中へのカムフラージュ、陛下も我々同様に薔薇姫様の復活を待っておられる。薔薇姫様の依代候補が来るとなれば、どの様な事があってもお前にお会いになったはず。それなのに執事が謁見見送りを決めた。執事にはそんな権限などないはずじゃが。それに陛下はわしらと同族、ヴァンパイアじゃ。況してそんな陛下がこの様な手荒な事をされるはずがない。……たとえ魔女狩りの体裁をとるにしてもだ。どうも引っ掛かる」
マーヤの言葉を受け、ケイシーは今日自分の身に起きた事も伝えた。マーヤは、やはりそうかと言わんばかりに眉をひそめ言った。
「……お前こそよく無事で。そうか……あの青年が……無事じゃと良いが」
それだけ言うとマーヤはゆっくり体を起こした。起き上がったせいか目が眩み、ケイシーにもたれかかった。呼吸は浅く、体は熱を帯びている。
「ケイシーや、その執事には努努近寄るでないぞ。恐らく陛下に何か不測の事態が起きているやも知れぬ。お前の心に薔薇姫様がおられるなら大丈夫。すぐにとは言えんが、いずれ因果は果たされよう。さて……ケイシー、お前に授けるものがある。腕を出すのじゃ」
ケイシーは言われたとおり左腕をすっと出した。マーヤはその腕を両手で掴むと優しく噛み付いた。
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