adieu

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「お婆様何を、痛っ!」  牙を立て噛み付かれたケイシーの左腕に、二筋の血がツツツと流れる。  左腕から感覚が無くなっていく。  痺れが肩に回ると、腕は力を失いダラリと垂れた。 「心配するな。お前にわしの魔力をやっただけじゃ。もうわしには用のない力……それは念人(ねんど)。自分の姿かたちを造り出せる力さ。それで少しは身を守れるじゃろう」  先刻、家の庭で火炙りになっていたのは『念人』で造られたマーヤの姿だった。身を守る術を持ち合わせていないケイシーを案じ、マーヤは彼女にその能力を授けた。   「こんな事をしたらお婆様の体が」 「どのみちわしは長くはない。それとこれを……それに血の契約を交わすのじゃ」  複雑怪奇な文字紋様が血でしたためられた一枚の紙をマーヤから渡されると、ケイシーは親指の腹をナイフで突き、滲んだ血で指印した。 「それはケイシー=ハイチの遺物『()()』。正式に依代となる者の為に用意されたアーティファクト。魔力を高めれば自在に形を変え、如何なるものも造り出せると聞く」  血の契約書はたちまち細切れとなり、ケイシーを取り巻くように宙に舞った。
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