adieu

13/19
前へ
/64ページ
次へ
 細切れとなった血の契約書がケイシーの視界を遮ると、真っ白の世界が辺り一面に広がった。  白以外は何も無く、空間に漂う香りが目の覚めるような清涼感を含ませていた。  感じたことのない空気。  冷たい気配が背中に伝い、ケイシーは振り向いた。   「キース……?」 「初めまして、依代の子。いいえ、私はケイシー=ハイチ。ようやく会えた……と言うべきかしら。フフッ」  その声の主は、名前以外は全て、キースそのものだった。 「あら、鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔。無理もないわ。私はキースの双子の妹」 「……双子の」 「そう。真紅の薔薇、キースの」  彼女が纏う冷たい空気は、彼女が発する透き通る声がそう感じさせている様だ。  しかし、ケイシーを見つめる眼差しは、どこか寂しげで憂いを内包している。 「依代の子、貴女に私たちの使命を押し付けてしまいごめんなさい。世界を守るためにはこうするしかなかった」 「酷いわ……勝手にそんな事背負わせて。私の意志はどうでもいいと言うの!?」 「そうは言わない。依代になるもならないも貴女の意志次第。ただ、貴女の意志がどうあれ運命はあるべき所へと向かうもの。願わくば、貴女にはこの古からの呪縛を解き放って欲しい。そして、姉を……キース姉さんを……」  そう言って、彼女の姿は消えた。   「……ケイシー……」  すると、空間に亀裂が生じ、ガラスが割れる様に真っ白の世界は崩れ落ちる。  
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加