adieu

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「……ここは?」  真っ白の世界が崩れると、そこには色鮮やかな世界が広がった。  そこ彼処(かしこ)に植生している薔薇が、それぞれに自らを主張せんと放つ香りがどことなく郷愁を感じさせる。  見覚えがあるようでも思い出せない。  それは、ケイシーの遺伝子が埋もれた過去の記憶を微かに揺さぶり起こしたのかもしれない。  いつの間にか手に持っている一輪の薔薇が、ひとりの少年に何かを呼びかける様に紫色に染まっていった。 「ねぇ、ケイシーお姉ちゃん? 大丈夫?」  見知らぬ少年が、乾いた地面に立ってケイシーに呼びかけている。 「あなたは?」 「もぅ、何言ってんのケイシーお姉ちゃん? ほら、お姉ちゃんの手から血が」 「あ……」  ケイシーは、突然の目眩で立っていられなくなりその場に倒れ込んでしまった。 「ケイシーお姉ちゃん!? だ、誰か! お姉ちゃんが!!」  意識が遠のく中、ケイシーの脳裏にある疑問がよぎった。  ……この少年は、私のこの紫色の血になんの反応も示さなかった……。 「……ちゃん……シーお姉ちゃん。ケイシーお姉ちゃんってば!」  誰かが自分を呼ぶ声がして、ケイシーはふと目を開いた。 「良かった! 目を覚ました」 「あなた、さっきの……」 「う、うん。大人たちに手伝ってもらってケイシーお姉ちゃんをここまで運んだんだ」  身体を起こし窓から外を見渡してみると、辺り一面の草木は枯れ果て、荒野が広がっているだけだった。  ここは、その荒野にある集落だった。寒空の下、身を寄せ合うようにして数十の家が軒を連ねている。その中に、僅かに作物らしきものが栽培されているようだ。 「助けてくれてありがとう。あなたは?」 「……どうしちゃったのさケイシーお姉ちゃん。僕だよ、ロイだよ」 「ごめんなさい。なぜだか分からないけど……私、きっとあなたの知ってるケイシーじゃない」 「また訳の分からない事言ってる! もぅ、ちょっと待ってて」  ロイはそう言うと部屋を出て行ってしまった。
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