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隣の柱に縛られた、例のボロ布を纏ったものはどうやら人のようだ。
フードのわずかな隙間から鼻や口元が覗き見えた。しかし、その皮膚は張りがなく、乾燥して干上がり、土色だった。
ケイシーは更に注意深く様子を窺った。
微かに肩が上下している。呼吸だ。隣で磔にされているこの人物は生きている。とは言え、それが分かったところでこの不穏な空気が払拭されるわけではない。それに、先程ロイが言った『ご馳走』の言葉も気になっていた。
「皆、大変待たせたな」
ケイシーが柱に縛り上げられた後、ガイが声を張りそう言うと、集まった群衆は地鳴りの如く唸りを上げた。
「今日はここにご馳走を用意した。しかも2匹だ!」
「おぉ!! ボロ布のフードが邪魔だ! ガイ、そいつのツラ見せてくれよ」
「良かろう。……ロイ、見せてやれ」
ガイの命令でロイは指でフードをつまみ、払い除けた。
「お前たちには勿体ない魔力だろ?」
「うぉおおおおぉお! 早く食わせろ!!」
フード下から現れた顔は、なんとケイシーの祖母マーヤだった。
「お、お婆様!!」
「くくくっ、面白くなってきた。よし、お前たち! ちゃんと『いただきます』するんだ」
「う……うぃただきまあーーーっ!!」
怒号を合図に、群衆がケイシー達に押し寄せる。
ケイシーは気を失っているマーヤへ必死に呼びかけるが、目覚めない。すかさず身体を揺さ振り束縛を解こうとするが、びくともしない。
とうとう群衆が2人の足もとに迫ると、柱はぐらぐら揺さぶられ今にも倒れそうになった。そして、ついに柱は2人を縛りつけたまま横倒しになり、餓鬼と化した群衆が襲いかかった。
「お婆様!! お婆様!!」
ケイシーは手足が引き裂かれそうになる中、激痛を堪えひたすらマーヤに呼びかけた。
「お婆様ーーーーー!!」
懸命な呼びかけも虚しく、次第にケイシーの意識は薄れていった。
深く海へ沈む感覚。
底無しに沈む感覚。
ゆっくりと、暗闇へ沈んで行く。
どこまでも静寂で、冷たく、重い。
もう何も見えない。
呼吸など既に止まっていた。
無限の時間を漂う五感だけの存在。
その五感さえ、たった今消失した。
意識だけが下へ下へ向かっている。
「……ケイシー」
何かが意識の底にいる。
「フフ、さあ目を開けてケイシー」
五感が機能しないはずが、視覚が戻るとその他の感覚も元通り回復した。
暗闇の中に、微笑むキースが立っていた。
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