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ある時、私は身動きが取れなくなった。
最近どうも様子がおかしい。
『私』はジッとその時を待った。
夢が終わり、ここが優しい声で何か言う。
ここじゃない何かが、たくさん聞こえる。
私は夢を見ようとした。
夢の中なら答えを教えてくれるからだ。
しかし夢を見る方法を知らない。
私は今までどうやって夢を見たんだろう。
ドクン、ドクン。ザァザァ。
耳をすましても夢を見られない。
『私』は恐ろしくなった。
思えばずっと私は始まり続けていた。
夢を見て、増えて行った。
じゃあこれも始まりなのだろう。
なにかがおきる。
頭がクラクラする。大慌てで『私』を確かめた。
『私』を確かめる?
私は私だから、わざわざ確かめる必要なんかない。
私でも『私』でも帯でもない何かに初めて触れる。
驚いて息の仕方を忘れてしまった。
いや、最初から知らなかったんじゃないか?
私は?
一瞬のことであった。
『私』は私をやめてしまった。
『私』がここじゃないところへ掴み出された。
私はまだここにいる。
夢じゃないのに夢が語りかけた。
私は『私』だけど、もうお別れなんだ。
すくみ上がるほど大きくはっきりとした音。光。
私がいなくなった。
いや、『私』がいなくなった。
サヨナラだ。これから私たちは別々の何かとして…。
私はその事実を受け入れる他なかった。
僅かながらの抵抗をして、手足を動かした。懸命に動かした。
何かが私を掴み上げ、めちゃくちゃに壁に押し付けられる。
苦しい。いつも私を守っていた柔らかな壁に初めて恐怖した。
「ここから出なくっちゃ」とっくに忘れたと思っていた夢が告げた。
『私』が行った場所へ。
抜け出た瞬間、私はさっきまでいた「ここ」がどれだけ温かく、暗く、そして息苦しい場所だったのかを知った。
眩い光に包まれ、私はめいいっぱい叫ぶ――。
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