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1. side RYO
自己紹介を少し。
氷川 伶。32歳、独身。
仕事は、ビルや住宅のデザインをしている、建築士。
小さいころに、両親が離婚して、父親に引き取られ、父一人、子一人で育った。
母に引き取られた姉が一人いる。
両親が離婚したのは、小学校に上がる前。
通いのお手伝いさんはいたが、特別手をかけること懐くことなく、気がつけば、家でも学校でも独りぼっちだった。世界はモノクロで、ただ過ぎていくばかり。
それが、普通だったので、自分がおかしいとか、変わっている自覚はなかった。
父は、今務めている、デザインHikawaの社長である。幼少から、仕事ばかりしていた父親。殆ど家にいることもなく、何がそんなに楽しいのかと興味を持ったのが最初だった。
自分が設計した建物が立ち、何年も何十年も、そこにあって、人と一緒に時を重ねる。
それが、いいなと思ったのがきっかけで、自分も建築の道へ進んだ。
俺が、父親の会社に勤めていることは、父親や上層部は知っているが、他の社員は、誰も知らない。クライアントの希望を聞き、建築条件とアイディアを緻密に計算し、図面におこす。会社の運営や、経営に携わることはなく、今後も関わるつもりはなかった。
俺のデザインは、人を選ぶ。一言でいうなら無機質で、シンプル。そんなデザインがいいと、何回かコンペで勝ったこともあり、俺を指名してくれるクライアントもいる。
だが、反対に人の温もりがない。とよく言われる。人が帰りたくなるような温かい家を、俺は、どうしてもイメージできなかった。
無意識に、耳が音を拾った。
「芽唯ちゃん、これ、データ入力してくれる?」
「はい。いつまでに終わらせればよろしいですか?」
「急いではないんだけど、今週中くらいに終わってくれたら嬉しいかなぁ。」
「分かりました。今の入力が終わり次第作業します!」
「ありがとう。よろしく。」
同じフロアの隣のブースで、同期の佐々木と話す彼女。また俺は、彼女を見ていたらしい。目が合って、彼女の表情がゆがむ前に、すぐそらす。
俺の世界は、彼女がいる時だけ色を変える。
俺の世界に、彼女だけが色どりを与えてくれた。
彼女が去って、世界はモノクロに戻った。
彼女と別れて、俺は孤独であることに気が付いた。
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