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14. side RYO
遠くでチャイムが鳴ったような気がした。
ソファーに横になったまま、うたたねをしていたらしい、ぼんやりとした頭では、もう、それすら判断できなかった。
夜もよく眠れない。一日中白紙の紙を前にして、仕事に悩むふりをして、彼女のことを考えている。
「氷川さん。」
ついに、幻聴まで聞こえてくるようになってしまった。
自分の愚かさに、頭を抱える。
「氷川さん、起きていますか?」
声が聞こえて、目を開いた。
目の前には、思い焦がれた彼女が。なぜ?
驚きすぎて、言葉も思考もなにも浮かばない。
「あの、勝手にお邪魔してすみません。」
家のカードキーがテーブルに置かれる。
「これを、冴島さんから預かりました。というか、この家の鍵を冴島さんがあけて、それから渡されたというか、とりあえず、お返しします。」
「どうして?」
呆然としたまま、ただ彼女を見る。
「ごめんなさい。」
いきなりの謝罪に頭がついていかない。目の前の、手が届きそうな距離に彼女がいる。それが夢みたいだった。というか、今この時が、夢なのかもしれない。
「あの、私、先日、冴島さんが、会社にいらっしゃったとき、コーヒーを出す前に、お二人の会話が聞こえてしまって、それで、勘違いをしてしまったんです。お二人が付き合っているんじゃないかと。」
夢の中で彼女はつづけた。
「会社でも、二人が婚約者だという話を聞いて、その後に、お二人の会話を聞いたから、お二人は、婚約者同士で、私との関係は、体の関係だけかと思いました。だから、もう、二度と会わないつもりだったんです。」
彼女の目から、涙が零れ落ち、そっと頬に手を伸ばす。
「でも、今日、冴島さんからお二人の関係を聞いて、私。氷川さんが好き。あなたの傍にいたいんです。」
彼女に触れた指から、彼女の言葉を聞いた耳から、少しずつ、現実に戻る。
そして気が付いた。今、目の前に彼女がいるこの場所が、俺の自宅であることに。
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