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麗さんにつれられて、タクシーで彼の部屋に来た。
あまりにも酷すぎて見てられないから、会いに行ってほしいと言われて、初めて彼の部屋へ。
麗さんは、自分のカバンから出したカードキーでカギをあけると、私の手にそれを握らせる。
「今度もらうけど、今日はとりあえず、本人に渡しといて。」
そういって、外で待たしていたタクシーへと戻っていった。
ドアを開けたまま、一度だけ、チャイムを鳴らした。
なんとなく、麗さんに言われて家に入ったけど、本来なら、家人の許可を得るべきだから。
「氷川さん。お邪魔します。」
そう玄関から声もかけてみたけれど、家の中は、物音ひとつしない。
センサー付きの照明らしく、廊下に立つと、電気がついた。
初めての彼の部屋に、ドキドキしながら歩いていく。
突き当りのドアを開けると、一面の夜景だった。
ダウンライトがついているだけの暗い部屋。
ソファーの上に、人影が見えて、そこに近寄る。
「氷川さん。」
声をかけたけれど、反応がなかった。
「氷川さん、起きていますか?」
うっすらと、目があいたけれど、焦点があわず、彼はぼんやりとしていた。
一週間ぶりにあえた彼。少しやせたのか、やつれ、顔色もよくなかった。
「あの、勝手にお邪魔してすみません。」
とりあえず、借り物を返そうと、テーブルにカードキーを置いた。
「これを、冴島さんから預かりました。というか、この家の鍵を冴島さんがあけて、それから渡されたというか、とりあえず、お返しします。」
「どうして?」
彼のかすれた声に胸が痛くなった。
「ごめんなさい。」
涙と共に言葉が零れ落ちた。
「あの、私、先日、冴島さんが、会社にいらっしゃったとき、コーヒーを出す前に、お二人の会話が聞こえてしまって、それで、勘違いをしてしまったんです。お二人が付き合っているんじゃないかと。」
思い出して、まだ胸がいたい。
「会社でも、二人が婚約者だという話を聞いて、その後に、お二人の会話を聞いたから、お二人は、婚約者同士で、私との関係は、体の関係だけかと思いました。だから、もう、二度と会わないつもりだったんです。」
彼の手が私の頬に触れて、彼の心が近づいたのを感じた。
「でも、今日、冴島さんからお二人の関係を聞いて、私。氷川さんが好き。あなたの傍にいたいんです。」
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