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彼は今。
とてもワクワクしていた。
何故かは解らない。
その、目の前に居るナンパした猫耳のミスラ族の女性が、自分の誘い文句に腹を立てて、食ってかかってきているわけだが、彼には、それがまるで、新しいそれから長い旅の始まりに感じた。
その瞳はまるで、ずっと前から知っていて、今日逢うべくして逢ったような、そんなデジャヴさえ感じさせる。
「君は絶対僕のことが好きになる!絶対にね!今日から君はマイレディ☆」
「はぁ~!?お前、通りすがりの初対面の女にそんなこと言うなんて、よっぽど頭おかしいんじゃないのか!?」
そのミスラは、太陽光を集めたような金髪で、少し幼さを残すとても気の強そうなその瞳は、ロンフォールの森のような深い緑色をしていた。
□その名はシルバーテイル。デフォルトナチュラルハイ。
事の次第は10分ほど前に遡る。
この男、シルバーテイルはいつも通り、アトルガン白門にて、傭兵募集のシャウトを聴きながら、バルラーン通りのいつもの柱の前で、バザーを開きながら相棒が競売から戻ってくるのを待っていた。
シルバーのバザーを覗いていく冒険者は意外と多い。というのも、彼が一風変わった外見をしているからであろう。
少し垂れた灰色で縞の入った大きな猫のようなミスラ耳。同じく縞模様の少しフサフサとした長い尻尾。長身のエルフ族エルヴァーン譲りでミスラにしては大柄であり、エルヴァーンのように少し彫が深い整った顔をしていた。ミスラという種族は、混血になるとオッドアイになりやすいらしい。彼の瞳も片方はチャコールグレーをしていたが、もう片方、左目は金色をしていた。
銀色の長い髪は後ろで束ね、尻尾の様に垂らしている。シルバーテイルの愛称の由来だ。
品物の値を相場の3割増くらいにしていても、いつもどおり今日もバザーを覗く者は多く、いくらか品物も売れた。シルバーは、自分の容姿がそれほど好きではなかったが、体よく利用はしていた。
今日も白門は天気がよい。次はどこへ行こうか。シルバーはぼんやりと空を見上げていた。
ふと目を空から街へ戻すと、ミスラが1人、足を止めて自分のバザーをみている。嫋やかな金糸の髪をゆったりとまとめ、まだ幼い感じであるのに、時折横髪をかきあげる仕草がやけに艶っぽく見えた。
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