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「どうしたのさ、急に改まっちゃって」
私は照れくささをそう言ってごまかした。叔父は私の方に向き直り、真っ直ぐに私の目を見つめた。
「俺には息子がいない。御前が息子みたいなものだった。俺が死んだらこの家は御前にやる。ここで薬師を続ければいい」
私はただならぬものを感じながらも、どうしてもそれを認めたくなく、
「死ぬなんて縁起でもない。まだそんな歳でもないでしょうが」
と笑った。しかし、叔父は笑わなかった。
「いや、俺はもう長くないんだ。もって一年、早ければ半年だ」
深刻な顔をしているわけではないが、冗談を言っているようにも見えなかった。だが、
「冗談でしょう?」
と私は、確かめずにはおられなかった。
「いや、嘘じゃない。どうやら肝臓をやられているらしい。他にもあちこち。もう手遅れだ」
まるで他人事のように叔父は坦々と言った。私はいきなりのことに驚き、何も言えなくなった。目の前が真っ暗になった気分だった。それに反して、叔父は団子に手を伸ばし、呑気にそれを頬張っていた。一体叔父は、自分が死ぬことについてどう思っているのだろう。
「叔父さんは、死ぬことが怖くないの?」
私は思わず、叔父にそう尋ねていた。叔父は微かに笑って、口の中の団子をお茶で流し込んだ。
「ああ、怖くない。これは強がりでもなんでもない。自分でも、少々呆れるくらいだ。どうやら自分は、生きることにあまり執着しない性質のようだ」
私は哀しくなったけれど、叔父らしいと言えば叔父らしい気がした。叔父はまた庭の方を遠い目で眺めながら、だがなあ、と言葉を継いだ。
「一つ困ったことがあるんだ。死んだら、瑞樹とした約束が守れない」
私は叔父の横顔を見つめた。叔父が瑞樹さんとした約束の話など、聞いたことがなかった。
「御前、瑞樹のことを覚えているか?」
「覚えてるよ」
瑞樹さんは、ほっそりとした色白の美しい人だった。少し寂しげな顔立ちをしていたけれど、笑うと春の日差しのように暖かで、私にとても優しくしてくれたことを覚えている。叔父とは鴛鴦夫婦と呼ばれていたようだ。けれど、私が十の歳に、風邪を拗らせてあっけなく亡くなってしまったのだった。
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