柏木奇譚

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頃合い?一体何の?」 足元の土と睨めっこしていた私は、のっそりとした動作で叔父の横顔を見つめた。叔父はごそごそと着物の懐に手を突っ込むと、小さなお守り袋を出した。そして、その口を開けると、ころんと手の平に小ぶりのどんぐりを転がした。それはよく磨きこまれたかのように、ぴかぴかと黒光りしていた。 「ほら、件のどんぐりだ」 「あの、行商人からもらったっていう?」 そうだ、と頷くと唐突にそれを口の中に放り込み、お茶で流し込んでごくりと飲み込んでしまった。私は突然の叔父の行動に呆気に取られ、それを口を開けて見ていることしかできなかった。 「・・・どうして?」 と、思わず洩れてしまった言葉に、 「これの使い道は、たぶんこれで正しいのだと思う」 と答え、叔父は再び栗羊羹を抓み始めた。  私は嫌な予感がした。そしてそれは的中し、それは叔父の人としての命を縮めたと言えるのかもしれない。  それから七日目の晩、私は変な夢を見た。私が薄の生い茂る野原で昼寝をしていると、叔父が薄を掻き分け掻き分けやって来るのが見えた。叔父は私が寝そべっていた大石のところまでくると、 「ちょっとの間、会えなくなるから、御前に暇乞いに来た。すぐに戻って来るんだが、兄貴たちにもよろしく伝えてくれ。今度会うとき、俺は柏の木になっているだろう」 とそれだけ言って、じゃあな、とまた薄の間をすたすたと行ってしまった。止める間もなかった。  そんな夢を見た朝、慌てて叔父の元に行ってみると、叔父は布団の中で冷たくなっていた。まるで眠っているかのような、やすらかな死に顔だった。  叔父の遺言で、叔父の遺体は瑞樹さんの墓の隣に埋められた。それは叔父の家の裏手の森の中にあり、そこだけぽっかりと円く開けていて、日当たりが良く、静かで眠るのにはもってこいの場所だろう、と生前の叔父は言っていた。  それから私は叔父の家を譲り受け、本格的にそこに住むようになった。相変わらず、薬師としてそれなりに忙しい日々を送っている。そして、妻も迎えた。私には勿体ない程の良き妻である。
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