なみだ

3/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 僕は人と関わるのが苦手だ。苦手という表現は違うかもしれない、僕は自分から人に関わらないようにしている。 理由は僕が超能力者だからだ。 にわかには信じられないかもしれないが、僕には人の思っていることが分かったり、物を浮かせたり、人に映像を直接伝えることも出来る、勿論スプーン曲げもできる。おおよそ超能力者ができるであろうと推測されていることは全てできるのだ。この力は生まれたときから僕にあったもので、遺伝ではない。両親は普通の人間だし、二つ下の妹もそんな力は持っていない。隔世遺伝ではなかと思って先祖をたどってみたこともあるが、該当者はいなかった。そして、どうして僕だけがこんな能力を持っているのか考えるのをやめた。今ではこんな人とは違う能力を持った子供をよく両親は見捨てずに育ててくれたと感謝している。それこそさらし者にして金儲けの一つや二つできたかもしれないけれど、親は普通の子供と同じように僕を育ててくれている。 最初、この不思議な力は僕に全能感を感じさせてくれた。 なんでもできる、人と違うことがなんでも簡単にすることができる。しかし、その全能感はあっという間に自分が化け物であるという気持ちに変化した。 昔……幼稚園の時、友達の前で超能力の力を使ったことがあった。 その結果は散々なものだった。友達は僕のことが怖いと全員離れて行った。そして僕は孤独になった。その時初めて僕のこの力は全能なんかじゃなくて、人の世界から排除される理由になるのだと悟った。この力は隠さなくてはいけないものだと幼心に誓ったのだ。それからはこの力を人前では一切使っていない。時々、力が消えていないか確認するためにせいぜいスプーンを曲げるくらいだ。そして、曲がってしまったスプーンを見て、今日も普通になれない僕はため息をつく。 父と母は普通の人と同じように生きているように見える僕に満足しているようだった。両親は僕が普通じゃない力を持っていることをあまりよくは思っていない。 普通、なんて素晴らしい響きなんだろう。 普通であれば皆の中に居られる。時々感じてしまう超能力の片鱗に悩みながらも、それは知らないふりをして仮面のような笑顔を貼りつける。 たくさんいる人の一人でいられる。安心だ。僕は普通の人間であると偽って生活をしている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!