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彼女は学校を訳の分からない理由で欠席するというのに妙に楽しそうだった。
ちゃんと海が見渡せるところまできて、僕は足を止めた。砂浜を踏む音が消えて、彼女も僕の隣で止まる。
「怖くない?」
「怖くなんかないわ。波の音がすごく近く感じる。海の前にいるのね、私達」
「うん」
「潮の香りがする」
そう言った彼女に、僕は尋ねる。
「超能力の事、冗談だと思ってる?」
「私知ってるわ、貴方がそんなこと冗談で言う人じゃないって」
「手、握ってもいい?」
「もう握ってるけどね」
僕はその言葉にとても慌てた。今まで彼女の腕を引いていたことを全く忘れていたのだ。流れ込んでくる彼女の感情も全く感じられないほど、僕の心臓は高鳴っていて頭の中はぐちゃぐちゃだった。
僕の脳裏に離れて行った友達の顔が浮かんで、急に手が震え出す。
「あれ、ごめん」
まるで泣き出しそうな声でも出していたのか彼女は「大丈夫」と言った。
それが彼女の心からの言葉であるということが分かったから僕は、震える手を反対側の手で押さえて、心を落ち着かせた。
「準備はいい?」
声も震えていたかもしれない、彼女は「怖くないよ」とでもいいたそうに握った手を少し握り返してきた。
「いいわ」
僕は彼女の脳に直接僕が見ている景色を移す。
地平線まで続く青の世界は、水色の空と混ざり合うようにして、一面を青で塗り潰していた。
暫くすると僕の手ではなく、彼女の手が震えてくるのを感じた。
「……綺麗」
ぼそりとそう呟かれた彼女の顔が見たくて、僕はそっと彼女の顔を見た。その時の気持ちはまるで禁断の実を口にするかのようだった。
彼女は泣いていた。
彼女の涙に海の青が映っていた。それはとても綺麗で、僕は握る手に力が入るのを感じた。この手を離してはいけないと思った。
僕は再び海へと視線を向けた。潮の匂いがする。
僕たちはそこに立ち尽くした。
青に夕日の赤が混ざりあうまで、ずっと。
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