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長らく聞こえていた重機の音も聞こえなくなった朝、思いきってそこを見に行った。
思い出のあった場所だった。そこが無くなって見えた青空は、とても広かった。
荒れた土を蹴りあげる。砂埃が舞って、少し後悔する。そのままぼんやりしていると、複数の足音が聞こえた。門を抜けてきたのは、三者三葉の男達。
「よう、たっくんだろ?」
「お前、ムックか。随分とまあ、伸びたな」
たっくん。そうだ、たっくんだ。僕はそう呼ばれていた。たっくんった頃の記憶が呼び起こされる。目の前のムックは正しくずんぐりむっくりの体型だったはずが、身長が伸びたおかげか、印象は逞しいの方にシフトしていた。
「俺、わかる?」
「ジョーだろ。分かるよそれくらい」
にやりと笑うと右側にだけエクボができるのは変わらない。少し口下手な所もそのままだ。けど、昔は僕と言っていたのに。他が変わっていない分、些細な変化が目に付く。
「そっちはしーちゃんか? 髪長いから一瞬気づかなかった」
「久しぶり、たっくん」
野球少年だったしーちゃんは、見た目でいえば一番変わっていた。坊主だった髪は長く伸び、薄めの茶髪に染められている。服もきらびやかになり随分と派手になっているが、爪が綺麗に揃えられている所は昔も今も一緒だ。顔立ちだけは全く変わってないから、顔を見ればしーちゃんだということはわかり易かった。
こうして顔を合わせるのはいつぶりだろうか。僕以外の三人は引っ越して、今はこの街には住んでいない。メールなどで連絡を取ってはいたが、こうして顔を合わせることはなかった。
「三人とも揃ってくるとは思わなかった」
「俺としーちゃんは同じ電車だった。ジョーとはバス停であったよ」
「バス、減ったね」
ジョーの言葉に苦笑する。地元民の中でもバスを使うのは病院に行くお年寄りぐらいで、他のやつらはみんな車で移動している。何せ数時間に一本だ、いくら田舎でもそんなには待っていられない。
「なあ、それより、見に行こうぜ」
ムックが待ちきれないとばかりに体を揺らした。こういう時、先陣を切るのはいつもムックだった。ドタドタ走る音を思い出し、そこまで覚えていたことに内心で驚く。
「そうだよ、行こう」
しーちゃんの言葉に全員がムックを見ると、ムックはにっこり笑って歩き出した。ゆったりとした足取りの中に、いつかの足音が隠れている気がした。
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