郷愁

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 みんなで目を見合わせると、誰からともなくつま先で線を引き始めた。職員室はこのくらいの大きさじゃなかっただろうかと、適当に線を引く。ムックはまっすぐに伸びる廊下を、ジョーは職員室の隣のトイレを小さく小さく書き出し、しーちゃんは昇降口を書き直し始めた。  職員室の枠組みを作り終えて、首をかしげる。こんなにも小さかっただろうか。あたりを見渡すと、確かに職員室の大きさが間違っていないことはわかる。それでも、ずいぶんと小さく見えた。  遠くから、廊下を伸ばしすぎたムックの笑い声がする。ジョーが小さすぎたトイレを書き直すために、土を蹴り上げる。しーちゃんはとっくに昇降口を書き終え、今度は階段を縁取っていた。  改めてあたりを見渡す。最初にここへ来たとき、ずいぶんと空が広く見えた。校舎の消え去った、学校だった場所はずいぶんと閑散として見えて、空の大きさがそのまま、失くなってしまった校舎の大きさに見えていた。  いま、四人分の笑い声が響いてるこの土地の狭さを思い知る。幼いころのすべてだったこの場所は、大人になった僕たち四人の笑い声だけで満たせるほど、ちっぽけな場所だった。 「たっくん、どした?」  トイレを書き直し終えたジョーが声をかけてくれる。彼の声は、昔に比べてだいぶと低くなっていた。それでも、ジョーの声だった。 「いやさ、変わったんだなって思って」  感傷に浸っているのだと、自分で分かった。僕らが過ごした小学校はだいぶ前に廃校が決まり、少し前に取り壊しが終わった。耐震工事もなにもない、何処にでもある小さな小学校だった。もうここには何もない。なくなってしまった。広くなった青空が、少しだけ恨めしかった。 「たっくんも変わった」  ジョーの言葉にうなずく。僕も変わった。小学生だった僕は大人になり、「たっくん」ではいられなくなってしまっていた。もう「たっくん」でいられる時間は残り少ないのかもしれない。 「おいそこ、さぼってるだろ」  ようやく適切な長さの廊下を書き終えたムックが返ってくる。その言葉にジョーと一緒に逃げ出すと、そのまま鬼ごっこが始まった。  あと少しだけ、「たっくん」を楽しもう。そう思って、階段の線を一本一本描いていたしーちゃんを鬼ごっこに巻き込んでやった。
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