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なくなった校庭に落書きをして、年甲斐もなく鬼ごっこやらなにやらはしゃぎまくって、もう若いとは言えないからだが悲鳴を上げ始めたころ。僕らは校門のあった場所にあつまった。
重く軋んで耳に痛い音を立てていた門扉は取り除かれ、かろうじて道とのつながりが、そこに門扉があったことを教えてくれていた。
「たっくんは実家で暮らしてるの?」
しーちゃんの言葉にうなずく。泊っていくかと聞くと、三人ともが首を振った。当たり前だ、皆、自分の生活がある。自分の時間を生きているのだ、もう子供ではいられない。
彼らが帰れば、僕を「たっくん」と呼ぶ人はいなくなるだろう。別々の人生を歩む四人がもう一度集まれる可能性は低い。
「なあ、また集まろうな」
ムックがつぶやく。いつもの騒がしいムックの様子とはかけ離れたその態度に、それが社交辞令だとはとうてい思えなかった。ジョーがうなずき、しーちゃんがもちろんと答える。
それが難しいことだということは、ここにいる誰もが分かっていた。それでも、誰もがその未来を願ってやまなかった。
明日は仕事がある。いつまでものんびりしてはいられない。三人を近くの駅まで送り届ける。電車が来るまでの時間、またポツポツと話をした。はしゃいでいたさっきまでの時間とは違う、とても穏やかな時間だった。近況を話したり、今住んでいる場所の話をした。四人で穏やかな時間を過ごすのは、これが初めてだかもしれないと思った。
電車がホームへ来るとアナウンスが流れる。立ち上がり、白線の内側へ並ぶ三人を見守る。
昔とは打って変わっていた。でも、確かに彼らはムックで、ジョーで、しーちゃんだった。そして僕は、たっくんだった。そこだけは、変わらなかった。
「俺、結婚する」
ジョーがこぼす。突然のことに声が出ず、ムックは逆に叫び声をあげた。一歩遅れてしーちゃんがおめでとうとこぼし、僕もようやくそれに続く。
「案内、送るから、来いよ」
ジョーがまたニヤリと笑った。右側にだけできたえくぼが、変わらずそこにあった。
今度は僕が行く側になるのか。そう思うと、楽しくなってくる。みんながいなくなる寂しさと取り残される切なさが、ゆっくりと薄れていく。
「おう、じゃあな」
残されるなら会いに行こう。今度は、僕から会いに行こう。そう決める。電車が去り、空が広く見えた。 晴れた8月の青空は、青く澄んでいた。
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