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だが、生きる為とはいえ人の命と引き換えに糧を得るという人の道を外れる生き方をしたが故に、彼は大きな対価を支払う事となる。
その対価とは恋人や兄弟、友人といった大切なる者達を失うという代償だった。
黒翼という亜竜の群れに住んでいた街が襲撃され、流城塞都市バルガスに流れ着いた結果、大切な者達の安全と引き換えに、暗殺者としての道を選ばざる得なかったアルミス。
しかし、結果は大切なる者達を人質にとっていた張本人にして、雇い主たる悪徳議長バルネロ・ガナックの裏切りによりアルミスは、一夜にして全てを失う事になる。
バルネロがアルミスを切り捨てたのは、自分に逆らう勢力の中心者を一掃し終えたが故。
そして、バルネロがその罪をアルミスに擦り付けたのは、住民達の敵意を自分以外に向ける為だ。
その結果、アルミスの大切なる者達は謀反人の協力者として、冤罪でありながらバルネロの手によって公開処刑となる。
大切な人々を失い、バルネロの追跡を逃れ数百キロ遠方の小規模都市ラプランドへと流れ着くアルミス。
しかしその後、アルミスの口を封じる為に幾度となく、バルネロはアルミスへと刺客を送り続けた。
そしてアルミスを始末出来ない事に業を煮やし、バルネロは大型生物をアルミス排除の為に投入してきたのである。
本来ならば逃げるべき局面だが、アルミスは逃げる訳にはいかなかった....。
何故なら、この街で盲目の少女と出会ってしまったからである。
少女は目が見えないという、致命的なハンデを背負いながらも懸命に生きようとしていた。
彼女は歌という手段を用い、生活の糧を得ていたのである。
そして、そんな少女の歌は復讐を果たす為だけに生きようしていた傷だらけのアルミスの心を癒し、人間らしい人を思い遣り気持ちを取り戻させてくれたのだ。
故にアルミスは、盲目の少女だけは必ず守り抜くと誓ったのである。
しかし、現実はそんなに甘いものではなかった。
小さな山を思わせる巨大な亀のような獰猛な殺戮生物は、アルミスのみならず街の住民全てを補食するべく、背中から無数の触手を打ち出す。
(やらせるものか!)
アルミスは瞬時に水の刃と、水槍で迎撃体制に入る。
だが、数百はあろう多数の触手を全て迎撃する事は、考えるまでもなく事実上不可能だった。
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