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アルミスは霧のベールを生み出し、巨大生物の視界を塞ぎ相手を翻弄するが、数が数である。
触手の全てをどうにかする手段などある筈もなく、アルミスは辛うじて少女の居る宿を守り続けるのが精一杯だった。
そんな中、都市警備隊の勇猛なる者達が巨大生物に挑み、その次々とその命を散らして行く。
街が壊滅するのも時間の問題だった。
(くっ......ふざけるな!
こんな不条理など認められるか!?)
アルミスは、納得出来かねる現実を直視し激昂する。
だが、巨大生物と言う名の災厄はアルミスのそんな怒りすらも呑み込むかの如く、無数の触手と巨大生物の巨体は周囲の全てを破壊した。
そして、アルミスの必死の思いを嘲笑うかのように、アルミスの僅かな隙を突き、数本の触手が盲目の少女が居る宿を強襲する。
(頼む、どうか無事でいてくれ!!)
アルミスは体を駆け巡る脱力感に襲われながらも、盲目の少女の無事を信じ祈るような思いで宿へと走った。
しかし、その願いは無惨にも打ち砕かれる。
半壊した宿に飛び込みアルミスが目にしたものは、触手の先端たる鋭き口先に上半身を噛り取られて、佇む残されし両足のみ。
その両足は赤い血に染まり、その傷口から漏れ出す血液が木造の床を、赤く染めあげる。
「うおぉぉぉぉぉぉッーー!!」
次の瞬間、アルミスの内側に言い表しようのない怒りと悲しみが駆け巡り、アルミスは苦痛の余り叫んだ。
受け入れがたい絶望感と、心を引き裂くような痛みと悲しみ。
そんな形容し難い感情が、アルミスの心の内を嵐の如く激しく渦巻く。
しかし、その感情が皮肉にもアルミスに新たなる力をもたらした。
その力とは、アルミスの想具・水の双剣アクアヴァイトの進化である。
アクアヴァイトは、アルミスの復讐心と絶望を吸収し、禍々しい臓器を思わせる形状の赤黒き二本の刃へと、その姿を変えた。
そして、アルミスは血の涙を流しながら、巨大生物に向けて歩き出す。
無数に転がる死者と残骸の山を踏み締め、逆立った赤色の髪をなびかせながら一歩一歩、緩やかな足取りで近付いて行く。
巨大生物もまたアルミスの存在に気付き、無数の触手を放ちながらアルミスに向けて移動を開始する。
触手は数にして、数十以上ーー。
だが、今のアルミスにとって巨大生物は最早、敵ではなかった。
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