思うが故にーー。

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(遂に、この日が来てしまった......。) 白き剣を携えた少女は複雑な心境で、強固なる黒き防壁に包まれた黒き要塞を見詰める。 再びこの地を訪れるまで、時間にして約四年ーー。 しかし、この地での剣の師を相手しての戦いは、その年月とは異なり数百年に匹敵する数と化していた。 そして今日、師との戦いは終わりを迎える。 それは大切な人を救う為の戦いだった。 だが、救う為には、その大切な人と戦い勝たねばならない。 そんな矛盾のような皮肉なる現実に、純白の外套を纏いし少女は思わず苦笑した。 この城塞の中で剣の師にして、恩人であるリュートが自分の訪れを待っている。   普段は強固にして、絶対的な防衛力を誇る城塞も今日に限り、守りが手薄になっている事を少女は知っていた。 しかし、それは偶然ではない。 剣の師たるリュートが、意図的にそうしたのである。 何故ならそれが唯一、無駄な戦いを避ける方法でありーー。 同時に自分を救う唯一の手段だからだ。 だが何より、その再開はお互いにとって今生の別れとなる。 その事を少女と剣の師たるリュートは、知っていた。 故に少女も、そして剣の師たるリュートもまた、この日が訪れるまでに幾度となく運命の改変を試みてきたのである。 しかし、現状はそう容易くはなかった。 幾度、繰り返そうとも一人が必ず犠牲になる。 犠牲になる者は、戦いの勝利者だ。 何故、勝者が犠牲になるのかと言えば、それは相手の幸せを願うが故である。 敗者となりし者に、死すべき運命を歩ませぬが故に勝たねばならぬのだ。 勝者が死に、敗者が生き残る。 そんな勝利による恩賞の無い、自身の命を投げうつ戦い。 これこそが今、少女シオンと少女の剣の師リュートが行おうとしてる戦いだった。 そして、そんな死ぬ決意せねばならぬ過酷なる道へと少女シオンは踏み出す。 黒き金属製の重々しい門を通り、城塞内へと......。 ーー同刻ーー 漆黒の鎧を纏う青年が、薄暗き寝室の窓より外を風景を見詰める。 (来たかシオン・・・・・・。 運命を定める為にーー。) 人々より漆黒の魔王として畏怖されし青年は、徐に溜め息をついた。 訪れし運命の時。 (正直、この時がこない事をどれ程願った事かーー。 だが......。)
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