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ーーそれは決して避けられぬ運命ーー
リュートは運命の改変を続けてきたが故に、その事実の重さを一番良く理解していた。
運命を改変する力を有する剣、フェイト・ブレード。
過去に、その力を持ってしても改変しきれぬ状況にリュートは、幾度も遭遇してきた。
だが、改変しきれぬのはフェイト・ブレードを操る者の思いの力が、それを乗り越えるに足る領域まで届いていないが故ーー。
しかし、今回の状況に対する乗り越えるべき領域は最早、人間一人の思いなどで超える事が出来る領域ではなかった。
いや、例え一人でなくてもーー。
リュートは運命改変の黒きフェイト・ブレード、絶陽(ゼツヨウ)の鞘に手を当てながら、静かに目を閉じる。
絶望と苦しみに満ち足る運命を、強き思いの力で改変し一筋の希望へと変える黒き刃。
運命改変の双剣の片割れたる漆黒の刀ーー。
リュートはこの漆黒の刀で、幾度も絶望に満ちたる運命を改変し、希望に繋がる道を切り開いてきた。
しかし、今回は今までのモノとは明らかに次元が違う。
そう......かつて、運命改変の剣たるフェイト・ブレードを生み出した超古代文明ですら、文明の終末を変えられなかったように今、訪れし運命は改変不可能としか言えぬ確定力を有していた。
だが、二人が助かる方法が無い訳ではない。
二人が助かるだけならば、全ての責務を放棄すれば事足りるからである。
しかし、その選択肢を選ぶという事は同時に自分達を含めた全ての生命がこの世界から消滅するという事ーー。
故にリュートは、その選択肢を選ぶ訳にはいかなかった。
だが、それは当然の選択。
全てを犠牲にする選択肢など、何の意味もない。
唯一、世界を救える立場にありながら、一時の感情の為に全てを放棄して滅びの道を歩むなど、愚の骨頂に他ならなかったからである。
そして、シオンもまた、その選択肢は除外している事をリュートは知っていた。
幾度となく繰り返してきた運命改変の選択ーー時空転移によって。
故にーー。
(こんなモノが最善の選択とは、皮肉なものだなーー?)
リュートは心の内で呟く。
それが現実であり現時点での最善ーー。
認めようと認めまいと、その事実が変わる事はない。
(さて......そろそろかーー。)
リュートは覚悟を決めると、幾度となく繰り返した瞬間に備えた。
そして、運命の時が訪れる。
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