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今では随分、昔のこと。 学生の頃のことだけど。 私が引っ越す前に住んでいた所で、有名な怖い都市伝説があってね。 当時の学生だったら、ああそれ懐かしいって言う人が何人もいるんじゃないかしら。 まるで一時の熱病みたいに、私が通う学校の生徒に噂はゆっくりと浸透し広がっていったから。 それは「駒鳥鬼(コマドリオニ)」って言われていて。 出る場所は決まって地元のN峠を、車でいくらか走った所。 今はもう防犯の為に閉鎖されたと聞いたけど、その噂が流行ってた当時はまだ、峠の真ん中くらいから脇道を降りて行くと休憩所を兼ねた駐車場があったのね。 元々N峠はひどく路が曲がりくねっていて、ガードレールの向こうは急な崖だったから。 灯りの少ない路が延々と続くし、運転する人が疲労していたらそこに車を停めて、休憩出来るようにと作られた場所みたい。 昔から死亡事故が多い道路だものね。 雨の深夜。その休憩所でシートを倒しドライバーが休んでいると、駒鳥鬼がやって来る。 最初はバックミラーやサイドミラーに、ずぶ濡れの、髪の長い女の人の影が映る。 真っ黒なシルエットで、歩き方は幼児のようにぎこちなくて、よく見ると右手に踵の折れたハイヒールを持っているのが分かる。 雨の音に混じって、ズル…ズルッ…って、何か引きずるような音を立て、よろよろと駒鳥鬼が車に近寄って来る。 ミラーをよく見ると、女の裸足の右足は足首から下が変な方向に曲がっていてね。 折れた足のまま、ゆっくりこちらに近づいて来る。 傘もコートもないボロボロの白いスーツに、コマドリみたいに頭全体が血で真っ赤に染まって。 怨めしそうな真っ赤な目で、こちらを見ながら歩いてくる。 何故、駒鳥鬼と呼ばれているのかは分からない。 けれど駒鳥鬼に出会って、無傷で生きていられた人はいない。 出会えば、みんな気が狂う。 気が狂って自殺する。 怨みを抱えたまま亡くなった、女の魂が鬼になった駒鳥鬼に殺されるんだって……
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