黄昏時

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その仕草に私は焦り、 心臓がいつもより早く脈を打った。 「もう真っ暗じゃないか。廣瀬すまんつい話し込んじまったよ。」 「まだ全然大丈夫だよ。」 少しの抵抗。 「いいや、女子がこの時間まで出歩いていたら、 親が心配するだろ?」 失敗に終わることも分かってた。 ついうつむいてしまった私に、 あなたは声をかけてくれる。 「廣瀬?」 「廣瀬どうした?」 顔をあげてあなたを見つめる。 「高橋くん、私、わたしね……」 しかしまっすぐ私を見つめる彼の瞳に耐えきれず。 「ううん、なんでもない。」 そう言って目をそらした。 「なんだ、変な廣瀬。」 あなたはそう言って立ち上がる。 「じゃあな、廣瀬また明日。」 「うん、高橋君また明日。」 あなたはその場から離れていった。 太陽は完璧に沈み、 一番星が頭上にきれいに輝いた。 今日もあなたに好きって言えなかった。 同じクラスになってからあなたとどんどん仲良くなって、いつのまにかあなたの事が好きになっていた。 でも私が好きってことはあなたはもちろん、 他の誰も知らない私だけのひみつ。 夏休みに入ってほぼ毎日あなたはここでフリーダイビングの練習をしていたのも、私は知ってる。 偶然を装っていつもあなたと会話するのが 楽しみだった。 あと少し…… あと少しであなたに想いを伝えられる。 だからお願い。 お願いだから、まだ成仏しないで…… 8月31日で時間が止まっているあなたに この想いを伝えるまでは 気がつけば涙が流れていた。 私は手で涙をぬぐい、 ベンチから立ち上がった。 海岸を吹き抜ける風は秋の装いから 冬の気配に変わってきた。 「高橋くん、また明日ね。」 ぼそっとつぶやき、私も家路に着いた。
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