ミセス・ミュラー

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 彼女は四十路には入っておりましたが、なお衰えない美貌、一層に男を惹き付ける魅力を持つ資産家の寡婦でございました。  淑やかで品も知性も教養もあり、いかにも裕福な娘時代を過ごし、いかにも裕福な暮らしを絶やす事無く、当たり前のように青春も壮年も恵まれて生きてきたと、爪先まで物語っておりました。 ブルジョアであれば彼女と言葉を交わすだけで、その蠱惑的な知恵を聞くために夜を明かしたくなる事でしょう。  しかしながら私の女の好みは、若くて愛らしいと言いますか、このような生業をしているものですから、世間知らずで騙しやすい、恋に熱しては盲目的に尽くす女が好みだったもので、酸いも甘いも噛んだ審美眼を持つ女を相手にするのは、遺産に眩んでいなければ出来ない事でございました。
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