ミセス・ミュラー

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 さて金持ち共が集まるパーティーに召使いを気取った装いで潜り込んだ時、一際異彩を放つ彼女に眼を惹かれました。 格好が驚くほど不自然だった訳ではなく、彼女を取り巻く空気には独特のものがあったのです。  ギラギラと光らせた目で男を品定めする様子で、私は愛人を探しているのだと考え声を掛けました。  私の立ち振る舞い言葉遣いから、召使いや来賓客ではないとすぐに見抜かれてしまいましたが、むしろそれを面白がり、随分と退屈していた夫人を愉しませた私は、この未亡人の愛人になるのに時間は掛かりませんでした。 と言うのも、彼女が愛人を探しているとの私の推測は当たっていたからです。  ミセス・ミュラーの夫は十年ほど前に亡くなっておりました。 世間から断絶されたような屋敷で、年配の執事と莫大な遺産を食い潰すだけの暮らしをしていたのです。  想定以上の好物件だと、この時は思いました。 もしこのパーティーに出ていなければ、私は卑しい人間でも、まだまともな人生を送れた事でしょう。
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