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無言で歩く間を気遣ってか星宮が話し掛けてくる。
「今日も暑いね」
「…あぁ」
「夜になったら涼しくなるといいなぁ」
「…うん」
「花火、よく見えるとこ取れるといいね!」
「…ん」
「……」
「……」
騒がしい鼓動とは逆に言葉は出てこなくなる。
やがて星宮も諦めたみたいに黙り込んでしまった。
俯く彼女の横顔を盗み見る。
直視できないくせに本当は凄く見たかった。
華奢な浴衣の肩と少し後ろに抜いた襟からのぞくすらりとした首筋。
漆黒の睫毛や桜貝のように艶やかに塗られた爪。
(ヤバい、可愛い過ぎ…)
似合うのは分かってたけどこれほどとか…
思わず溜め息が漏れる。
不意に星宮がこちらを振り仰ぐ。
俺は慌てて眼を逸らす。
不思議そうに星宮が視線を戻すと、俺はもう一度彼女に眼を遣る。
浴衣も髪も頬も夕陽を受けて薄紅に染まる星宮はどこか幻想的で、息を飲むほど綺麗だった。
河から駆け上がる夕凪の風がかんざしを揺らし、さらさらと音を立てる。
綺麗だよ、星宮…
言葉に出来ない想いを飲み込んで、俺はいつにも増して美しい彼女を眼の奥に焼き付けるように、その姿を見つめた。
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