一、高校二年 夏のこと

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「そういえば、(かける)。この前一緒に仕事したミサキさん。(かける)のこと紹介してほしいって言ってた」 「えっ、マジかよ。ミサキってあのモデルの?」 「そうだよ。大学生だけど」 「やるじゃん、(かける)」  美月(みづき)とやり取りしていた声は、(りく)のものだった。  内容が内容だけに、さくらの耳はロバのように大きくなる。 「へえ。やった」  それは、(かける)の声だった。中学の頃より音程は低いけれど、少し甘ったるいような声質は変わっていない。 「今度会ってみる? この前連絡先交換したんだ」 「うん。会う会う」 「俺も連れてけよ」  そんな会話の続きが、背中の後ろへ遠ざかっていった。  さくらが、ふっと肩の力を抜いたところで、七海(ななみ)が話しかけてきた。 「すごいね。(かける)くん」 「え?」 「モデルだって。大学生の」 「あー……うん」 「あーあ。付き合っちゃうのかなあ」  七海(ななみ)(かける)を好きだとかいう話は聞いたことがない。けれど、今の会話を聞いた彼女は、おもしろくなさそうな表情を宙に浮かせた。
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